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興津螺旋株式会社 代表取締役社長 柿澤宏一氏

2016年10月17日

「トップに聞く」

 興津螺旋株式会社

 代表取締役社長 柿澤宏一氏


  聞き手 未来開発・パブリシティ委員会「トップに聞く」グループ


 インタビューサマリー


  ・ 木ねじから、ステンレスねじのトップシェア、特殊鋼へ

  ・ 感性を大事に、チタンの面白さを伝える

  ・ 「工程内品質保証」で、不良は限りなくゼロに近づく

  ・ 女性が働きやすいと、みんなが幸せになる

  ・ お客様の要求を受け入れて、引き出しを増やす

  ・ お参りすることが好き。毎日神棚に手を合わせる

  ・ 「真善美」を信条に、自分が買いたいものを作る

  ・ 会社概要

 

 

柿澤宏一 (かきさわ こういち)

1972年生まれ。上智大学経済学部卒業。商社勤務を経て1996年に興津螺旋に入社。2007年3代目代表取締役社長に就任。座右の銘は「真善美」。

 

 

 

木ねじから、ステンレスねじのトップシェア、特殊鋼へ

―― 御社は興津螺旋鋲製作所として創業され、ステンレスねじの国内トップシェア

に成長されるまで、どのように歩んでこられたのですか。

 

柿澤 創業者である私の祖父は、材木屋の次男でした。祖母の兄弟がねじの会社に勤めていたので、工場を見せてもらう機会もあり、実家の材木にも関係があるということで、1939年にねじや釘、針金の会社を始めました。戦時中だったので、1940年代には海軍工廠協力工場に指定され、ゼロ戦の部品を作ることになりました。

 戦後、復興資材として木ねじの製造に戻り、1950年代には、鉄の木ねじでは国内シェアNo.1になりました。
 木ねじのかたわら、アルミサッシの組み立ての仕事もしていましたが、1960年代にはステンレスねじの製造を開始し、アルミサッシの台頭とともにステンレスを専門とするようになり、1980年代には、ステンレスねじでも国内シェアNo.1になりました。

 

―― 現在、御社ではどのような製品を製造しておられますか。

柿澤 ステンレスねじが85~90%です。規格品を中心に小ねじ、タッピング類やソケットスクリューを製造しており、窓、ドア、キッチン、バス、トイレなど、住宅や建材系のお客様が最も多いです。一般にステンレスねじのメーカーは小ねじやタッピングを作っていることが多いですが、当社が特徴的なのは、木ねじも意外と多いことです。十字穴付き木ねじ、すりわり付き木ねじに関しては、当社は唯一のJIS規格認証工場です。
 最近ではチタンやチタン合金、ニッケル合金、クロムモリブデン鋼など、特殊鋼やレアメタルの製品も徐々に増えてきています。

―― チタンに取り組まれたきっかけは。

柿澤 ステンレスの需要が伸び悩んでいた時期に、これからは難加工材もやっていかないとだめだと判断したからです。鉄からステンレスに移行できたのだから、もっと難しいところに行くべきだと考えて、当初は市場もわからないまま始めました。
 始めてみるとチタンの市場は小さく、売れにくさもあります。私の感覚では、チタン合金のねじはものすごく加工が難しいと思いますが、作る難しさを「1」とすると、売る難しさは「2」です。しかし、売れにくいこともあって、付加価値が高いにも関わらず、参入されにくい市場でもあります。また当社の場合は、競技やスポーツの業界、化学プラント向けなど、守秘義務契約を結ぶような製品が多いので、一度獲得したお客様には継続していただける可能性が高く、現状では、ステンレスよりは競争が少ないと感じています。
 当社は一般社団法人日本チタン協会の会員ですが、日本ねじ工業協会とは活動のテーマが異なります。ねじは業界自体が成熟しているので、あまり目立たないねじを世間に認知してもらうということが重要なテーマですが、チタンの場合は、まだ市場があまり開拓されておらず、いかに市場を広げるかが活動のテーマです。チタンの市場開拓は、私自身のテーマでもあります。

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感性を大事に、チタンの面白さを伝える

―― 御社としては、チタンの市場をどのように開拓しておられるのですか。

柿澤 一つの取組みとして、大手のオンラインショッピングサイトで、競技用チタン合金ボルトを1本単位で販売しています。その狙いは、自転車や自動車の競技を愛する人たちにチタンボルトを使ってもらいたいことと、その人たちを通じて仕事でも使ってもらえる機会を増やすことです。頭の形はヘキサロビューラーやLHスティックスなど、変わった形状のものが多いですが、寸法は規格品のボルトと同じです。
 父は、祖父から「これからはステンレスだぞ」と言われたそうで、確かにステンレスの需要は高まりました。それを真似してか、父は私に「これからはチタンだぞ」と言ったのですが、市場がなかなか広がらなくて苦労しています。これまでいくつかの業界に参入することができましたが、チタンによって課題が解決したり、改善したりする業界はまだ他にもあると考えて、がんばっています。

―― 柿澤社長にとって、何がチタンの魅力なのでしょう。

柿澤 私は自転車や自動車など乗り物が大好きなのですが、自転車のボルトをチタン合金に変えるだけで、乗り味がしっかりするし、車のハンドルの6本のボルトを変えただけで、剛性が変わるのがわかります。チタンは一定の力がかかった時のひずみが少ないからだと思うのですが、ねじを数本変えただけの変化を、人間が剛性感として感じられることがすごく面白いし、人間の体に入っているセンサーはすごいと思います。

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ハンドルをチタンボルトで固定したレーシングカーと競技用自転車

 

 きれいとか、かわいいとか、面白いとか、速いとか、そういう感覚、感性は、当社が大事にしていることの一つです。世の中の人は数字で物事を評価しようとする。それはわれわれにとって、やりやすさ、わかりやすさでもありますが、反面、楽しくはありません。

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自転車競技に出走している社員の勇姿

bicycle02.jpgショールームの自転車。後方には競技で獲得した数々の賞状やメダル

 

 私は、本当にいいものは感性によって生まれると思っています。乗り物を「足」として考えるなら、自転車や自動車の剛性が変わっても意味はありませんが、それを面白い、楽しいと感じてくれる人はいます。ばかばかしいと思う人もいるかもしれませんが、そういう楽しさを仕事にできる人はあまりいないでしょうから、そのばかばかしいところをあえてやりたい。それにはブランド性も大事だと思うので、中国製のチタンは安くても使わない。大きな収益になるとは思いませんが、チタンの面白さを世の中に知らしめるのも、自分の使命だと思っています。

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「工程内品質保証」で、不良は限りなくゼロに近づく

―― 御社を構成する製品の一つに、「規格品の改良改善」とありますが、

具体的にはどのような製品なのですか。

 

柿澤 当社の規格品を使ってくださったお客様から「十字穴がなめた」とか、「ちぎれた」とか、「ねじ山が潰れた」などと、ご指摘をいただくこともあります。そもそも規格品ですから、JIS規格のスペックは満足しているので、「不良品ではない」という答えでも間違いではないでしょう。でも当社では、お客様がお使いになるシチュエーションなどをお聞きし、JIS規格に適合していて、かつお客様の使用条件下でより良く改造したものをご提案します。

 お客様にとっては、規格品であることより、自分たちの使用条件に適合した品物であることが重要なはずで、もっと言うならば、ねじが欲しいのではなく、締結の手段が欲しいのです。お客様に満足いただける製品を「お客さまと一緒に作り出す」という考え方のもとでやっていることです。
 多くのお客様に共通する課題と思われることは、規格品にもフィードバックしています。たとえばなめにくい十字穴もその一つで、JIS規格の範囲内で興津螺旋スペックを作り、すべての十字穴の製品で採用しています。商社さんとのおつきあいのなかで、規格品でお困りだったお客様の問題が、同じ規格の当社製品で解決したという事例も増え、ご評価いただけるようになりました。

 

―― 御社では最終全数選別を行わず、「工程内で品質を作り込む」とのことですが、

なぜそれができるのでしょう。

 

柿澤 当社では「工程内品質保証」と呼んでいますが、「精度が維持された、不良を出さない設備」、「加工状態の監視と流出防止」、「不具合再発防止策の徹底」によって、実現しています。

 まず、良い品物をつくるには、良い設備が必要です。腕でカバーするという考え方もありますが、100分の5ミリの精度が欲しければ、金型の精度も、設備の精度も、100分の5ミリより高くなければいけないはずで、設備で品質を作り込むというのが当社の考えです。
 当社では1994年からTPM(Total Productive Maintenance )活動に取り組んでおり、2002年度にPM賞/TPM優秀賞第2類、2005年度にPM賞/TPM優秀継続賞第2類、2008年度にはPM賞/TPM優秀賞カテゴリーAを受賞しています。現場従業員の4割が、国家資格である「機械保全技能士」を取得し、ヘッダーや転造機を、1人でバラして、組み立てて、精度を高めることができる技術を持っています。設備の保守点検を社内でできるようになってから、機械の故障がなくなり、精度も上がっています。
 各機械メーカーから、不良加工を検出するチェッカーが提供されていますが、チェッカーはセンサーですから、機械自体の精度が悪ければ、良品を不良と判定したり、不良を良品と判定したりと、有効に使うことができません。当社の場合は機械の精度が高く、チェッカーがきちんと作用するので、不良品は次の工程に行きません。これをすべての工程で繰り返しています。
 それでも不具合が出た場合は、徹底的に再発防止をすることで、不良品の発生は限りなくゼロに近づいていきます。こうすれば最終全数選別は不要になるはずです。

―― 全数選別を指定するお客様もおられるのではありませんか。

柿澤 はい。たとえばハードディスクを作っているお客様は、全数画像選別が指定でした。建築用ねじなら多くても月に150~200万本ぐらいですが、ハードディスクねじは週に200万本というレベルで、選別機が何台あっても足りません。そこで、お客様に当社のものづくりの考え方をお伝えして、現場も見ていただき、「全数選別なし」を認めていただきました。それ以降もゼロクレームなので、考え方としては正しいのではないかと思います。住宅建材メーカーでも当社の考え方に共感してくださるお客様もおられ、とてもありがたいと思っています。
 品質に関しては、同業他社と比べて「品質が幾分いい」という程度ではなく、「この会社に頼めばクレームが減る」と確実に言ってもらえるような「ゼロ・ディフェクト」を目指して取り組んできています。

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女性が働きやすいと、みんなが幸せになる

―― 御社は女性従業員がとても多いですが、ものづくりの世界では珍しいことですね。

 

柿澤 「ねじガール」はいろいろなメディアにも取り上げていただいていますが、現在当社は事務職を含めて女性従業員が5割を超えています。
 特にこの2年ぐらい、不良廃棄率が半減しているのは、ねじガール効果です。ねじガールは、やることをきちんとやる。ルールを守ることは当たり前なのですが、彼女たちの凄さは、そのルールが何のために存在するかという本質をちゃんと理解してくれていることです。だから絶対に手を抜きません。また腕の立つ先輩たちも、「やっぱり凄い」と尊敬され、さらに伸びるのです。

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現場で活躍する「ねじガール」

―― しかし一般には工場勤務というと、男性の応募のほうが多いのではありませんか。

 

柿澤 多くの会社が男性を優先的に採用するので、それを自分の実力と勘違いしているのかもしれませんが、女性は認められることに対して現実を見ていて、入社したからには、認められたことに感謝し、働く場があってありがたいという思いで仕事をしています。今の女性社員たちも、「文系でもいいか」とか、「女性でもいいのか」という不安を持ちながら、ここで働きたいから来てくれた人たちです。そういう人たちは妥協もしないし、伸びるし、凄いです。
 採用に関しては、いなかのねじの会社に優秀な人が入社してくれるわけないと思っていた時期もあります。しかし、やはりそうではない。自分が面白い仕事をしたいと考えた時に、こういう人と働きたいという人材を探しに出かけることはものすごく大事です。工程内品質保証を実現できているのも、優秀な人材あってのことで、当社の従業員は、技術も人としてもかなりレベルが高いと自信を持っています。
 勉強が苦手、人と喋るのも苦手だから、工場ならいいというような、工場勤務という仕事に対する考え方は間違っていると思います。特に残念なのは、商業高校の先生などが「あまり出来が良くない子がいるので、現場でいいから採用してくれないか」とおっしゃることです。それは違います。約束やルールを守れない、事務の仕事ができない人は、現場でもいい仕事はできないと思います。
 正直なところ、最初は女性がこんなに多くなるとは思っていませんでした。特に女性を採用しようとしたわけではなく、優秀な人材を採用していったら、結果的に女性が増えたというのが現在の状況です。今では、国立大の工学部の学生や、大学院生も応募してくれるようになりました。

 

―― 女性が働きやすい工場であるためには、課題も多かったのではないかと思います。

 

柿澤 当社では、女性が働きやすい職場にするという視点で、長いレンチや電動リフトを導入したり、自動倉庫や安全な工作機械を導入するなど対応してきました。しかし、腕力などのハンディを工夫で埋めているだけで、それ以外は男性、女性を特に区別していません。女性が働きやすいようにした結果、男性も楽になり、高齢になって力が弱くなっても働ける環境になる。女性も男性も、高齢者も、誰でも幸せを享受できるような仕組みを作っていくことに意味があると思っています。

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腕力のハンデを克服するために工夫された工具や工作機械の数々

 

 もう一つ重要なのは、会社に対する信頼感です。中小企業の良さの一つは、個別対応が可能であることでしょう。過去には仕事場にベビーベッドを置いてあげたこともあります。実際は子どもの世話をしながらでは、仕事は思うように進まないと思いますが、そういうことでも受け入れてくれる、会社として対応してくれるという安心感があるだけで、働く人は会社のことを信用してくれるし、喜んでくれます。
 女性は、不安や困り事、願いなどがあると言ってくれますが、それは会社を信じているから。ありがたいことです。たとえば「産休を取りたい」ということは、その会社が好きで、そこにいたいからでしょう。そこで上司が一瞬でも困ったような顔をしただけで、その信頼関係は崩れ落ちてしまう。むしろチャンスとして捉えないと、もったいないと思います。そういう不安などを解決できるように対応していくのはすごくいいことだと思いますし、当社では、子どもが熱を出したりすれば、すぐに帰れるような風土ができてきています。

 

―― 御社では有給の取得も多いそうですが、どのような理由があるのでしょう。

 

柿澤 JOBローテーションを実施しているおかげです。事務職の人が別の事務職というレベルではなく、現場から事務職、事務職から現場というレベルのローテーションです。特に女性の仕事に関しては、その人しかわからないという会社も少なくないと思いますが、JOBローテーションによって、その人しかできないという仕事をなくしています。
 当初現場の従業員には抵抗もありました。でもJOBローテーションの結果として、有給を取りやすくなることがわかり、今は積極的に動いてくれるようになっています。
 実はこれも女性がきっかけです。女性は休むもの、産休や育休を取るものと考えて、その対策を考えていくと、すべてに応用することができます。有給や、産休、育休だけでなく、男性も入院するようなことがあれば産休と同じような休み方ができます。現場の女性が妊娠しても、何の抵抗もなく事務職に迎え入れることもできます。女性を徹底的に大切にすると、全社が幸せになると今は信じ込んでいます。

 

―― JOBローテーションは、他の職種を理解できて、仕事もしやすくなりそうですね。

 

柿澤 はい。自分の仕事の川上、川下を理解するだけでも全然違うと思います。また、評価の面でも、客観的に同じ尺度で評価しやすくなります。
 その人しかできないと思っている仕事でも、意外と他の人がその仕事をしていないからわからないだけ、ということもあります。また一度経験した部署が困っていれば、自ら進んでカバーしてくれたり、リーダーシップを発揮してくれたりと、それまで気づかなかった各人の力量や可能性も見えてきます。おかげで、管理職を任せられそうな女性も3人ぐらい見出すことができました。

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お客様の要求を受け入れて、引き出しを増やす

―― これまでの歩みのなかで、転機となった出来事はありますか。

柿澤 一つはリーマンショックかもしれません。暇になってしまったので、チタンねじの開発に注力しました。チタンはもともと手がけてはいましたが、リーマンショックの時期には、自動車のハンドル用のチタン合金ねじの開発に取り掛かりました。最初は社内では、完全に「社長の趣味でやっている」と思われていたと思いますが、今は有名なメーカーからお仕事をいただけるまでになっています。仕事が減ってしまった時でも、落胆するより夢に向かって突き進んだほうが、社員にとってもいいと思います。

わかりやすい言葉で経営方針を語る柿澤社長

 ステンレスのソケットスクリューに参入したのもリーマンショックのときです。実は2005年ぐらいにチタンのねじを日経産業新聞のトップで取り上げていただいたことがあり、それがきっかけで面識もなかった有名な会社の方に「チタンでソケットスクリューを作れないか」と持ちかけられました。しかしソケットスクリューは作ったことがなかったので、まず練習を兼ねてステンレスで開発し始め、2007年の終わりごろに完成させていました。その後のリーマンショックのときには「あのステンレスのソケットスクリューを売ろう」と考えて参入したのです。名前も知らない方の影響で始めたことですが、やっていて良かったと思いました。絶対的なボリュームは多くありませんが、毎月2割ぐらいずつ伸び、今では売上の10%程度になっています。

 

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陽極酸化処理によって美しく仕上げられたチタンボルト

 

―― アクリル製のねじも作られましたね。

柿澤 知人から「アクリル製のねじが欲しいという人がいるが、作れるか」と言われたことがきっかけです。アクリルでねじを作るなんて、ねじ屋の仕事ではないと思う反面、お客様はこういうことも「ねじ屋さんに相談しよう」と思うんだな、面白いな、とも思いました。ならば期待にお応えしようと、アクリルの棒を旋盤で削って作ったところ、とても喜んでいただきました。そのねじは、ユニクロ銀座店のアクリル製の陳列棚に使用されていますが、求められたことを素直に受け入れたことで、引き出しが増えました。

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お客様に喜んでいただければプラスチックねじもつくります


 他のお客様には、ステンレスのソケットスクリューを採用していただいたときに、「鉄のソケットスクリューも一緒に欲しい」といわれたことがあります。「ステンレス屋だからない」と言ったら、「仲間から仕入れればいい」と言われて、そうか!と。今は、鉄のソケットスクリューを作ることもありますし、頼まれればワイヤーカットで鉄の部品も作ります。
 こういうお客様方の言葉を咀嚼してみたことで、自分たちがいかにステンレスや規格品に固執していたか、素材や形状、「作る」ことに凝り固まっていたか、ということに気づきました。現在は、作り方や素材にこだわり過ぎるのをやめるようにしています。

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お参りすることが好き。毎日神棚に手を合わせる

―― 柿澤社長ご自身についても、お聞きしたいと思います。

どのような子ども時代を過ごされましたか。

 

柿澤 休日や夏休みには、よく会社に連れて来られていました。習字とピアノを習っていたのですが、その教室にいくためのバス停が「興津螺旋前」だったので、習い事の帰りにもよく来ました。事務員さんが優しくて、カルピスを出してくれて「会社は最高だな。カルピスがあるのか!」と思っていましたね。

 休日は、父と一緒に会社でラジコンカーをしました。私は安いラジコンカーしか買えないのに、父は高くていいのを持っている。父から「社長は好きなことができるってことを見せたかった」と後になって聞きましたが、私は子どもながらに「子どもと同じことをやっているなんて、お父さんって子どもだな」と思っていたので、作戦はあまり成功とはいえませんね。
 すっかり父の策略にはまったこともあります。中学生ぐらいのときに、父から「ガールフレンドができたら、全部男が払うもんだ」と言われました。でも成績が10段階の6以上でなければ、お小遣いをもらえなかったので、いい成績をとるしかありませんでした。
 ねじの仕事について意識したのは、床屋さんがきっかけです。私は、本当はコックさんになりたいと思っていましたが、ある日、床屋の親父さんに「うちの息子は床屋をやると言っているが、お前もねじ屋になるのか」と言われました。その時まで考えていなかったのですが「そういうものなんだ。ねじ屋になるのもいいか」と思ったことを覚えています。

 

―― 大学卒業後は、商社勤務を経て興津螺旋に入社され、約10年後に社長に

就任されましたね。

 

柿澤 はい。お世話になった商社は当社のお客様で、1年ほど修行させていただきました。

当社に入社してからは、まず品質管理の仕事からスタートし、TPM活動の事務局、品質向上や現場の5Sといった仕事が中心でした。途中からは営業もし、また現場も学びながらドリルねじを作ったりしました。
 社長就任の時期については、うすうす2008年頃だろうと感じていましたが、そこに向けて自分の基盤がためをし始めた2007年に、社長になるように言われました。想定より1年早かったですね。でも、就任の1年後ぐらいにリーマンショックが起こりましたから、想定通り1年後だったら、社長就任は先送りになっていただろうと思います。
 私は、社員と社長は位が違うのではなく、社長という役割だと思っています。しかし自分がどんなに努力したとしても、周りから見れば社長の息子だから社長になったと思われる。ありがたいことに、そういうことを教えてくださる方がいらしたので、就任当初は、急にやり方を変えたり、新しいことを始めたりするのは控えました。いきなり変えると、今までが間違っていたようで父にも申し訳ないですし、社員も身構えると思いましたから。未来に向けての商品展開について考えつつ、それまで会社がやってきたことを引き継ぎ、社長就任前から続けてきた品質向上には徹底して取り組みました。

 

―― 休日はどのように過ごされますか。

柿澤 車好きなので、富士スピードウェイを走ってタイムを測ったりしています。
神様にお参りすることも好きですね。最近では伊勢神宮に行きました。神様には願い事をする人が多いですが、本当はお願いするのではなく「感謝する」もの。昨年末に出来上がった新しい社屋にも、宮大工さんにものすごく立派な神棚を作ってもらって、毎日お参りしています。
 この神社にはどういう神様が祀られているのかといったことにも興味があって、調べるのも楽しいですね。郷土の歴史にとても詳しい方が教えてくれたのですが、うちの祖先は舎人親王の家来だそうです。舎人親王は京都から旅をしながら日本書紀を書きましたが、その旅に同行していたのが祖先です。舎人親王は、この近くで病死したのですが、祖先はそこに住み着いた。それが柿澤のスタートだそうです。

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「真善美」を信条に、自分が買いたいものを作る

―― 御社では「真善美」を経営信条に掲げておられます。

柿澤社長の座右の銘でもありますね。

 

柿澤 「真善美」は私が卒業した中学の校訓でした。当時は別段意識していませんでしたが、社長就任が近づいてきたときに、経営者にとっても、社会においても大切なことだと思いました。
 経営信条に掲げたこの言葉には、

 「真」:真の心 ホンモノ・真実を追求する

 「善」:世のため人のためになる

 「美」:製品の仕上がりを芸術の域に高める

という意味があります。当社では、ねじの「美しさ」も追求していますが、それはこの信条に則ってのことです。
 製品を芸術の域まで高めるには、「これ以上良いものは存在しない」と胸を張って言えるものづくりをしなければなりません。寸法が製品規格内であればよいというものではなく、中心値を狙うのです。また外観に傷がなく、形状が整っていなければならないはずで、それが美しさなのだと思います。「自分が買い手なら迷わず自社製品を選ぶようなものを作ろう」と常に言っています。

 

―― では、10年後、20年後には、どのような会社になっていたいですか。

柿澤 まず数字の側面では、もう少し収益力を上げたいですね。そのためには、工作機械やロボットの分野の仕事をもっと進化させたいと考えています。
 私が大切にしている感性の部分では、JOBローテーションなどの取り組みをしっかりやって、ワークライフバランスに合わせて仕事を選ぶことが当たり前な会社、人の集まる会社にしたいですね。今の勢いなら、10年ぐらいでできるのではないかと思います。そして、一般登用の女性が社長になるような会社になれたらいいですね。

 またねじという部品だけでなく、完成品にも挑戦したいと思っています。これも、どちらかというと感性に触れるようなもの、なくても困らないけれど、あると楽しかったり、癒やされたりするようなものを作りたいですね。

 

―― 興津螺旋の強みは何でしょう。

柿澤 人材だと思います。頭がいいとか悪いとかではなく、お客様のために仕事をする、いきいきと仕事ができるというような、職場への充足感という意味では、いい人材が揃っているのではないかと思います。自分で仕事を見つけて、喜んで働いている人が多く、見学にこられた方にも「楽しそうに仕事をしている」と言われます。それが一番うれしいですね。

 

―― 最後に、日本ねじ工業協会に対する思いをお聞かせください。

柿澤 協会の活動に参加させていただいたことで、技術も経営も優れたねじの会社があることを、今更にして知りましたし、横の繋がりもできました。協会のおかげで仲間づくりをさせていただいたと思っているので、今度は何が自分として発信できるか、協会に対して何をお返しできるかを考えています。



―― 貴重なお話をありがとうございました。

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【会社概要】

 創業        昭和14年 (1939年)6月

 代表者       代表取締役社長 柿澤宏一

 従業員数     80名

 認証       日本工業規格認証取得

           JIS B1111 十字穴付き小ねじ 認証番号JQ030839

           JIS B1112 十字穴付き木ねじ 認証番号JQ030840

           JIS B1135 すりわり付き木ねじ 認証番号JQ030840

          

           ISO9001:2008 認証取得 認証番号JMAQA-959

           ISO14001:2004 認証取得 認証番号JMAQA-E417

 

 社是       和・誠實・努力

 

 経営理念

        ・高品質な製品でお客様の仕事の効率を高め、人々に安心と信頼を提供する。

        ・会社で働く情熱ある社員とその家族の幸福を追求する。

 

 経営信条     真善美


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                新しい本社                  

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「トップに聞く」チームと一緒に

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(記事:ワッツコンサルティング㈱ 杉本恭子)