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未来開発パブリシティ委員会主催インドセミナー・サマリー(第2部)
2014年01月22日    カテゴリ:07.海外情報 

 

第2部 西橋時男先生ご講演サマリー

インド進出の現状とインドにおいて知っておくべきこと

 

講師

ウエスト・ブリッジ・アジア・パートナーズ株式会社 代表 西橋時男先生

丸紅株式会社に41年間勤務し、主として海外の電力、インフラ関連事業に携わる。海外営業で出張した国は、約40か国に及び、インドには通算10年駐在。1991年より1995年までチェンナイ(前マドラス)に丸紅社員として駐在、2008年より2013年3月まで丸紅よりJETROムンバイ事務所に出向、投資アドバイザーとして日本企業のインド進出を支援している。

ウェブサイトはこちらから→ ウエスト・ブリッジ・アジア・パートナーズ株式会社

 

 

インドに対する関心が高まっている

今日お話ししたいことは、日本の将来にとって、若い人たちの将来にとって、インドは非常に重要だということです。そういう観点でお聞きいただきたいと思います。

まず日本企業の現状ですが、在インド日本大使館のまとめによると、日本企業のインド進出は、過去4~5年で社数、拠点数ともに2倍以上に増加しています。中国に比べると数は少ないですが、インドに対する関心が高まっている証拠だと思います。

地域別の伸びを見ると、デリー首都圏近郊が一番多く、その次がチェンナイ、次がムンバイ周辺、バンガロール周辺という順です。なぜデリー首都圏が多いかというと、スズキやホンダが昔から進出していて、自動車の部品会社が増えているということと、パナソニックが家電工場を持っていることなどによります。チェンナイは日産が進出ずみ、今後イスズが進出予定です。しますが、シンガポールとかASEANに近いこともあってチェンナイへの進出企業数が伸びているのだと思います。

 

欧米企業、インドの地場企業に対してビジネスチャンスがある

日系機械大手の、生産地域と品目を見てみます。

「日系機械大手 生産地域、品目」

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デリー首都圏は、スズキが乗用車、ホンダがバイク、パナソニックが家電を作っています。みなさんのネジはこういうところにも需要があります。

今ホットなのは西部地区(グジャラート州、マハラシュトラ州)です。私が現地に駐在して感じるのはムンバイを含む西部地区に対する日本企業の関心がまだ低いということです。ぜひ西部地区に対する認識を深めていただきたいと思います。日本ではあまり知られていませんが、三菱重工が重電機を作っていますし、日立はエアコンやインバーター、シャープは液晶テレビの組み立て、スズキは2016年に乗用車の生産を西部のグジャラート州で開始します。ホンダも2輪車の生産を開始するといわれています。千代田化工は中近東地域の拠点として活用しています。三菱電機は、インドのマハラシュトラ州プネーのFAの工場を買収しました。川崎重工はバイクを作っていて、強化する方針だそうです。つまりここ数年で、みなさんのお客様が西部地区で急増するということです。

南部(チェンナイ、バンガロール地区)は、日産が乗用車、いすゞが軽商用車およびSUV、ヤマハが二輪車を作っています。東芝、日立は重電機、トヨタは乗用車、ホンダも最近二輪車の生産を始めました。コマツとコベルコも建設機械の工場を持っています。

東部地区では日立が建設機械を作っています。

このように、インド全国にみなさんの重要なお客様があります。ということは同時に欧米のメーカーも進出している。つまり日本企業だけではなく、欧米企業、インドの地場企業に対してもビジネスチャンスがあるということです。特にデリー首都圏、西部地区とチェンナイ、バンガロール地区で、お客様がみなさんをお待ちしているとご理解いただければよろしいかと思います。

日本から見るとチェンナイが重要な工業地帯と思われるかもしれませんが、実は工業生産のNo.1はグジャラートです。2位はマハラシュトラ、チェンナイがあるタミールナドゥは3位です。西部地区のグジャラートとマハラシュトラで、工場総生産の33.7%を占めています。ですからみなさんのお客様が特に多いのは、西部地区です。

「工場総生産シェア(2009年度)」

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インド企業とのM&A事例

日本の自動車部品会社は、日本の自動車会社の工場の近辺に進出しがちですが、横浜の自動車用ばねの世界的に有名なメーカーである日本発条は、インド総合戦略を推進していて、企業買収、新設によって、できるだけ日本の自動車メーカーと離れない距離を保って、工場を建設・運営する方針をとっておられます。

日本発条は、2011年、1800年代にインドで2番目となる株式会社を設立した老舗企業のばね部門を買収しました。西部マハシュトラ州のオーランガバードにある工場で、30億円程度の見事な買収でした。

オーランガバードで作られているばねは、北部のスズキ、バンガロールのトヨタに納品されています。遠くても構わないという自動車部品の会社もあるのです。日本発条のM&Aの際は、地場のコンサルタント会社、SKPとうまく連携して、コストを抑えて買収しました。通常M&Aというと大手の都市銀行などを活用して、数億円のコストをかけますが、おそらくコンサルタント料は数千万円だろうと思います。こういう会社もあるのです。

 

鉄道、原子力にもチャンスがある

みなさんの業種でも、今後チャンスが拡大するのではないかと思われるテーマがいくつかあります。

現在高速鉄道(新幹線、アーメダバード・ムンバイ間)の話がホットになっていて、実現は簡単ではありませんが、これが実現しますと、みなさんのビジネスチャンスがおおいに広がってくると思っています。

2013年にはロシアが作ったチェンナイ近郊の原子力発電所が稼働を開始しました。ゴルバチョフ時代から持ち上がっていた話です。東日本大震災の関係で工事が遅れたということもありますが、10数年の建設期間を終えてやっと運転にこぎつけました。

原子力についてはいろいろ議論がありますが、インドは世界最大の原子力発電のビジネスチャンスがある国です。ここにもチャンスがあります。

また重電機に関しては、インドは世界有数の市場です。三菱重工をはじめ、チェンナイに日立、東芝が、重電機の工場を合弁で立ち上げています。こういうところにも、みなさんのチャンスがあるのではないかと思います。

 

南部地区の商圏拡大の可能性

日産は、2014年の1月ごろに、かつて一斉を風靡したダットサンを発売します。日本からの協力も当然ありますが、インドで開発して大々的に販売していきます。したがって南部チェンナイ地区の自動車生産が急速に増える可能性があります。下馬評では、発売されたらかなり予約が入るのではないかといわれていますから、南部チェンナイの日産は、自動車部品会社にとっては大きな商圏になるのではないかと思います。

 

インドを世界への供給ハブにする

長野の小諸市にある日精エー・エス・ビー機械株式会社という会社は、ムンバイ近郊に工場を持っています。作っているものは、ペットボトルの成形機です。小諸の工場は従業員100名程度だそうですが、ムンバイの工場は1000人です。インド国内だけではなく、ヨーロッパ向け、アフリカ向け、北米向けの輸出が中心の工場です。インドという難しくて、電気もない、水もないという不便なところを、世界の機械の供給ハブにしている日本の中堅企業があるということを、みなさん認識していただきたいと思います。

インドは電力供給が大変で、電力コストがかかるという通念がありますが、改善している州もあります。日精エー・エス・ビー機械の工場があるマハラシュトラ州、その北のグジャラート州では改善していて、特にグジャラート州では停電はありません。ムンバイも、2012年に停電ゼロになったそうで、日精エー・エス・ビー機械は、年間6000万円ぐらいの電力代がセーブできたそうです。電力供給の良いところもあるのです。

2013年の2月に、私も現地の工場に行きましたが、実際の経営はインドの方がやっているということでした。さらに8月にはその方が日本の親会社の執行役員に昇格されて、現地はインドの方が社長になられました。インド人を有効活用して、インドから世界へ羽ばたくという日本の地方の中堅企業もあるのです。

このほか、広島のHIVECという会社は、2013年からチェンナイで、自動車部品のエンジニアリング業務を開始しました。

また新潟市のツバメックスという鋳型の会社は、現地企業と合弁で、自動車部品や家電関係の金型の設計・製造を始めました。

このように、地方の企業も果敢に進出し始めています。

 

GEは日本企業以上に進んでいる

日本の大手企業もインドに進出していますが、それ以上にインドに食い込んでいるアメリカのGEの事例をご紹介します。GEは重電機や風力、航空機エンジンの製造など非常に多面的に行っている会社で、インドのバンガロールにあるR&Dセンターでは1600件の特許を申請し、そのうち400件の特許を取得しています。

医療機器は、中国、アメリカ、インド、日本を使って、グローバルに先進医療機器を開発しており、バンガロールのR&Dセンターが本部になっています。グローバルプライスの15%安い医療機器を、インドの農村の病院に納入するということで、現地の技術者を使って、割安の医療機器の開発を進めています。

GEのR&Dセンターでは3000人が働いています。日立もインドをR&Dセンターにするそうですが、2年後に30~40人ということですから、全然レベルが違います。

 

インド中間層増加はあらゆる市場を拡大する

インドが日本にとって大事だという理由の一つは、ASEAN諸国と比較して、GDPの規模がダントツで高いことです。

「インド・アセアン 名目GDP」

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日経新聞は2020年には、インドの中間層が爆発的に増えると報道しています。中間層が増えるということは、車も買うし、家電も買うし、電気も使う、建設機械も売れる。ですからインドは自動車だけではなく、何から何まで生産量が増えていく、大きな市場なのです。

また組織化された工場での労働者数を、中国、ロシア、アメリカ、イギリス、インドネシアと比較すると、インドは最低数です。インドの製造業は離陸前ということ。つまりこれからインドの製造業は成長が見込めるのです。

 

ASEAN新興国だけでなく、インドにも関心を払うべき

日経新聞の2013年11月の報道で、シンガポールのリー・クワンユー公共政策学院長で、2004年までシンガポールの外交官として活躍したキショール・マブバニという方が、日本に対してエールを送っています。

「日本企業は、インド市場と東南アジア諸国連合(ASEAN)市場に等しく注意を払うのが賢明である。幸いにも、日本とASEANとの結びつきは長く、日本企業はASEAN市場を熟知している。しかしインドについてはそうではない。」

ASEANだけではない、インドも大事。みなさん目を覚ましてほしい。中立的なシンガポールの有識者がこういっています。

また「日本企業はインド市場で韓国企業に遅れている」、「低迷気味のインド経済は力強い回復が確実」だともいっています。インド民族はアメリカで大変成功していて、インド系米国人は一般的なアメリカ人よりも所得が高くなっています。もしインドの人々が、インド系米国人の所得の半分でも達成したら、インドのGDPは現在の2兆ドルから25兆ドルに飛躍的に増加する。つまりインドは力強く回復するのは確実、アメリカで活躍しているインド民族を見なさいということです。

「日本企業と日本政府が共同歩調をとることが必要」ともいっています。現政権はそのような方針をとっていますので、地下鉄や高速鉄道など、政府の案件に乗っていって、ビジネスを発掘していくのがインドに対するアプローチのしかたではないかと思います。

最近ミャンマーが脚光をあびていますが、そういうASEANの新興国だけでなく、インドにも等しく関心を払ったほうがいいということです。今日一番お伝えしたかったのは、ここです。

 

「インド最重点」

期せずして、パナソニックは「インド最重点」を打ち出しました。先ほどGEの話をご紹介しましたが、パナソニックも2014年1月にR&Dセンターを作ります。これはインド人の好みに合う家電製品を、インド人を使って開発するというものです。まさに流れに合致しています。米国、中国で苦戦していて、シェア拡大にはインドの中間層の開拓が必要という考えで、部品の現地調達率も3割から6割に上げるということですから、みなさんがインドに進出したときにはチャンスになると思います。

 

インド経済は回復の兆し

現在のインド経済は、若干回復の兆しがあります。経常赤字は金融政策の最大の課題ですが、それが大幅に下がりました。理由は金の輸入を抑制したからです。インド人は金が大好きで、金があまり取れないので輸入しているのですが、その量が莫大なので、経常収支が赤字になる。それを関税引き上げなどによって抑制した効果が出ています。

 

製造業GDP比増加により雇用の拡大を

今のインドでは製造業のGDP比が15%しかなく、雇用が生まれないことが課題ですが、政府は25%まで増加する国策をとっています。これに関して国営重電機会社のBHELの幹部が、「製造業の生産増加には、製品とプロセスのイノベーションがもっとも重要」だといっています。ここは日本企業がもっとも貢献できる部分ではないかと思います。25%に増加することによって9000万人から1億人の雇用増が期待され、製品マーケットは格段に大きくなるでしょう。

 

インド総選挙にも注目

インドでは2014年5月までに総選挙があり、国の新たな首相が決まりますが、今のところ野党側のモディ氏が有力ではないかと取りざたされています。インドはパキスタンや中国との国境問題とか、パキスタンからのテロ問題とか、いろいろな国際問題を抱えていますが、それらは棚上げにしておいて、「製造業の強化を優先する」とモディ氏は述べています。自動車、ハイテク、医療分野で輸出産業を育成する、これに絞るといっています。

現在モディ氏はグジャラート州の州首相で、同州へのフォードの進出、スズキ、ホンダの進出を推進しています。グジャラートは、お酒を公の場で飲めないインドで唯一の州ですが、お酒の好きな日本人用に、グジャラート州に日本人ニュータウンを作るといっています。もし自分がインドの首相になったら、これを全国に広げるともいっていますし、日本に対しては、おおいに期待してくれています。来年もしモディ氏が首相になれば、さらにインド経済は回復するのではないかと、私は考えています。親日的で経済優先、製造業優先であるモディ氏が首相になる可能性があるということに、みなさんも注目していてください。

 

今後の自動車産業は5000万台

自動車産業の可能性について、インド、日本、中国を比較すると、人口はインドが12.4億人、中国が13.4億人、日本が1.27億人ですが、自動車保有台数は、インドが2120万台、日本、中国が約7000万台ぐらいです。

「大きな成長力を秘めたインドの自動車産業」

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インドが日本や中国に追いつくのはもはや時間の問題で、今後少なくとも5000万台はインドで生産されることになります。重電機も建設機械も家電も同じくらいの規模の生産が行われるでしょう。これだけの潜在力がある、これだけビジネスチャンスがあるということです。

 

自動車業界地図

各論では、1位はスズキ、2位が韓国の現代自動車、3位以下は、あのトヨタでも凸凹があって、決して好調とはいえません。インドの自動車会社であるタタモーターズも若干低迷しています。

「新車国内 月間販売推移」

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「インド 国内新車販売 3位以下の自動車メーカー」

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最近のトピックスではホンダがかなり回復してきており、トヨタ、ホンダは、鍔迫り合いをしている状況です。1年後にどこが上がっていくかが、私にとっては興味の的で、いかに売れる車を作れるかによって、みなさんが納入を予定している自動車会社の運命が決まってくるのではないかと思っています。日産も今は下のほうですが、2014年初頭に新発表するダットサンが売れれば、納入チャンスが広がると思います。こういう業界地図も、ご承知おきいただきたいと思います。

 

日本車シェアは50%をキープ

本車の中国でのシェアは16.9%しかありませんが、インドでは50%以上で日本勢ががんばっています。スズキ、トヨタ、ホンダ、日産の乗用車販売を月ごとに見ると、ずっと50%以上キープしています。中国と違って、日本勢が半分以上のシェアを握っているということですから、インドでいいネジを安く作れば買ってくれます。これは必ず頭に置いておいていただきたい。私の個人的な見解では、日本車のシェアが50%から下がることはなく、さらに上がるのではないかと見ています。

 

今後は西部、南部に進出すべき

今後自動車生産が増えるのはどこでしょうか。

インドの北部は、日系勢ではスズキとホンダの工場がありますが、西部には現在ありません。南部には日産およびトヨタがあります。ですが南部の自動車生産量が多いのは、韓国の現代自動車です。

2014年からは、フォードが西部のグジャラートで生産を開始し、乗用車とエンジンを作るようです。フォードは、インド国内市場のみならず、インドからの輸出も計画しています。スズキは2016年から西部に進出します。このフォードとスズキによって、数年内に西部の自動車生産台数が増加することが予想されます。

チェンナイも日産のダットサンの販売が好調であれば、さらに増加します。したがって、インドの自動車生産基地で今後伸びるのは、西部と南部です。このことをぜひ頭に入れておいてください。多くの企業がインド北部に進出しているから、自分たちも北部にという風に考えないでいただきたいと思います。

 

ルピー安による輸出増はチャンス

インドルピーは、米ドルに対し1年間で約20%安くなりました。そのためインド製の自動車部品の輸出にとっては大きなビジネスチャンスです。インド製の自動車部品も自動車も、結構質が良く、ルピー安でもあり、インドの自動車部品各社は現在輸出に力を入れています。

スズキの例を見ると、アメリカにもヨーロッパにもアフリカにもオーストラリアにも輸出しています。

「スズキ インドからの乗用車・輸出」

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スズキにとってインドの工場は、グローバルな乗用車の輸出拠点なのです。韓国の現代自動車も同様です。フォルクスワーゲンはインドで不振ですが、ルピー安によりメキシコに年間10万台を輸出するとしています。

みなさんの部品はインド国内で販売される車だけではなく、インドから輸出される車でも使われるということ、インド市場のみなさんのマーケッとはインド国内だけでなく輸出用もあるということを頭に入れておいてください。

 

乗用車生産、2年後には510万台

インドの乗用車生産は、2年後には510万台になるという予測が、インド自動車工業会から発表されています。日本は、2012年度実績で328万台ですから、すぐにインドが日本を上回ります。日本より大きな市場がインドにはあるのです。

またインド自動車部品工業会では、自動車部品の輸出が2012年度の9.3億ドルから、15年には12億ドル、20年には30億ドルになると予測しています。輸出先はヨーロッパ、北米、アジア、それぞれ30%前後です。

 

日本の自動車部品会社も動き出した

2013年11月、JETROの自動車部品展示会・商談会がチェンナイとプネーでおこなわれました。日本の自動車部品会社は、チェンナイでは25社、プネーでは17社が参加しました。これらはまだインドに進出していない、あるいは他の地域に進出しているが今後チェンナイやプネーにも進出したいという自動車部品会社です。こういった形で、ようやく日本の自動車部品会社も動き出しています。

 

以上

未来開発パブリシティ委員会主催インドセミナー・サマリー(第1部)は、こちらから。

 

(記事 ワッツコンサルティング㈱ 杉本恭子)

 

未来開発パブリシティ委員会主催インドセミナー・サマリー(第1部)
2014年01月22日    カテゴリ:07.海外情報 

去る、12月17日に行われた、未来開発パブリシティ委員会主催「インドセミナー」のサマリーを2回に分けてご紹介いたします。

 

開会挨拶 

未来開発パブリシティ委員会 国際情報リーダー 長谷川恭裕氏(株式会社メイドー代表取締役社長)

 未来開発・パブリシティ委員会は、2010年に協会50周年記念行事として「ねじフォーラム」を開催して以来、「会報ねじ」のIT化と情報の提供を通じた、会員サービスの拡充を進めてきました。今後とも、「未来開発」を冠した委員会活動の一環として、セミナーなど、次代のねじを担う方々が集まり、研鑽を深める場を提供して参りたいと思います。

 今回は、その最初の試みとして、注目を浴びるインド情勢に詳しいお二人の専門家を招き、ご講演いただくことにしました。今後とも、このような機会を充実して参りたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

 

 

第一部 伊藤洋先生ご講演のサマリー

「今、何故インドなのか」 -注目集まるインドものづくり市場-

 

講師: 東京大学 大学院経営学部研究科 ものづくり研究センター 特任研究員 伊藤洋先生

1965年 山形大学 工学部を卒業後、本田技研工業に入社。金型設計、4輪車体生産技術、新生産技術開発、英ローバーへの技術支援などに携わり、ホンダエンジニアリング取締役を経て、2004年より現職。インドの自動車、部品産業を知る、第一人者といわれている。

 

インドは多様性と自由度の高い国

インドはどのような国なのか。面積は3,287,590㎢で日本の約9倍、28もの州からなっています。とにかく大きいということ。これをまず頭に入れておかないと日本と同じ感覚で考えてしまいます。

人口は約12億1000万人で日本の約10倍、しかし平均寿命は65歳です。GDPは伸びており、人口もどんどん増えて活性化しています。

22の指定言語があり、派生を含めると844もあります。

宗教もたくさんあります。「カースト」はご存知かと思いますが、実はインド全体ではなくヒンズー教にしかありません。イスラム教徒も12%います。人口1億5000万人のパキスタンは大半がイスラム教徒ですが、インドの人口の12%はパキスタンの人口よりも多いのです。

インドというと、カレー、タージ・マハル、象などを思い浮かべるのではないでしょうか。ターバンのイメージも強いと思いますが、実際はシーク教徒である2%の人だけが巻いています。女性が着るサリーは布を巻くだけなので、太っても痩せても着られるフレキシビリティがあります。インドはこういう発想をします。体にぴったりしている中国のチャイナドレスとは、まったく逆の発想です。

インドはとても多様性の国、自由度のある国です。共通点はインドに住んでいることぐらいしかない。ですから28州はそれぞれ「国」と見て、「インド版EU」と考えるべきです。国を理解するにはデータばかりではなく、こういうことを知ることがとても重要です。

 

現在のインドは購買力が強い

現在のインドは、都市部にはショッピングモールもあり、IT産業も増えています。空港もとても良くなりましたし、最近はスラム街がどんどん減少しています。地下鉄(メトロ)もあります。たいていは車より高いところを走っていて、たまに地下に潜ります。

女性の社会進出も進んできました。経済が発展すると人が足りなくなるので、女性が工場やIT産業に進出しています。スクーター乗車の80%が女性で、女性高級官僚も誕生しています。

携帯電話の使用も急速に伸びています。人口比で75.4%、9億1000万台が使われています。でも日本の携帯電話は使われていない。なぜなら、性能が良くて機能も多いが、値段が高い。むしろ多くの機能は必要なく、逆に停電の多いインドの携帯電話に必要なのはライトの機能。このような視点が大事です。インドの事情を考えて、必要な機能だけを安価で提供したノキアやLG、サムスンは伸びています。

インドの購買力平価換算GDPを見ると、2010年にはインドが日本を抜いています。GDP全体では日本のほうが高いですが、購買力平価という点で見るとインドが抜いているのです。

では労働力人口構成はどうか。2010年時点でインドは平均年齢24歳、日本は44.7歳。就労人口はインドが3億2000万人、日本は3500万人です。これが2025年には、インドの平均年齢は29歳で、就労人口4億3000万人に増えます。このような実態も理解しておく必要があります。

 

農業から工業へ

今インドで一番問題なのは、就労人口が多いといっても、その51%は農業で、GDPに貢献している割合は17%ということです。現在インド政府は、天候に左右されない工業に振り向けて、雇用なき成長から脱皮しようと考え、特に自動車、自動車部品、製薬に雇用を創出する政策をとっています。

ではなぜ自動車なのか。IT産業は売り上げは大きく輸出にも貢献しますが、雇用という面で人材が制限されます。自動車産業は、売り上げはIT産業の半分程度ですが、すそ野産業が広く多くの人を使うので、雇用の拡大につながります。

ただ自動車産業の欠点もあります。自動車産業が発展するには、エネルギーや道路といった、インフラ整備が必要ですが、まだまだ遅れています。そこで政府は、まずITでお金を儲けてインフラ整備をし、製造業を発展させて、雇用の増加につなげようと考えています。

「なぜ自動車か?」

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2006年からAMP(Automotive Mission Plan)を掲げ、2016年までに自動車産業総売り上げを340億ドルから1400億ドル、乗用車市場規模を100万台から350万台、雇用数を1045万人から4000万人、GDP貢献度を5%から10%にし、2006年に世界11位だったインド自動車生産台数を2016年までに7位の自動車生産国にしようと取り組んできました。実際2016年を待たずして、2010年には7位になりました。2012年には、中国、アメリカ、日本、韓国に次いで5位、2015年には3位、20年には2位になる見通しです。

「インドの自動車生産台数推移」

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注目のエリアは西部

インド北部と南部には日系企業もありますが、東西のエリアにはなく、現地のメーカーか欧州企業が多く進出していました。最近になって特に西部地区が注目され、日本企業ではスズキが進出します。

なぜ西部か。今までは東南アジアを見ていましたが、次に輸出するならば、欧州、中東、アフリカですから、そちらに輸出しやすい西部地区が注目されているのです。

インドには、世界各国から多くの自動車企業が集中しています。つまりインドに行けば、世界中の自動車メーカーにネジを供給できるのです。

「インド国内に立地する主な自動車メーカー」

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現在のインドは1960年代日本

GDPの伸びと車の台数の伸びは、大体比例します。インドの現在の1000人当たりの自動車台数は12~15台、一人あたりのGDPは1527$。これはちょうど1960年代の日本の状況と同じです。当時の日本は車を持つのが夢の時代。これが今のインドです。日本の歩みを見ると10年後には車はファミリーの必需品となり、GDPもどんどん増えました。おそらくインドも同じような道をたどると考えられます。

現在のインドでは、オートバイが必需品で車に乗っている人はまだ珍しい状況です。道路には、人も車も、牛やラクダもいます。道路は車だけのものではないということです。したがって車は一番遅いものに合わせます。都市では急激に車が増加していますが、交通ルールは十分に整備されていません。日本で車の安全というと「車対車」ですが、インドでは「車対人」です。信号はあっても無視しますし、高速道路の中にも人も牛も入ってきます。

また都市部では、大気汚染が深刻です。古い車が多いことに加え、特に冬場はたき火で暖をとるので、太陽がぼやけて見えるほど空気が濁ってしまいます。大気汚染の問題は中国だけではなくなってきました。

インドでは車はどのように使われているかを見てみましょう。インドでは追い越すときにはホーンを鳴らします。日本ではあまり鳴らしませんが、インドでは一日中鳴らします。また交通ルール無視なので、急ブレーキも頻繁です。ホーンやブレーキの耐久性をテストするなら、インドでやるといいといわれるほどです。

4人乗りくらいの車1台には6~10人、バイク1台にも5~6人乗ります。ですから、インドで使用する車はサスペンションが強くなければなりません。さらにロックとヒンジにも強さが必要です。なぜなら何か不審なものがないかと頻繁に調べられるので、その度にボンネットとトランクを開けてはバタンと閉めるからです。

ネジはすべてに関係しますね。こういうインドの事情を知れば、インドなりの考え方をしなければいけないと感じていただけると思います。

 

インドのオートエキスポを世界が注目

インドのオートエキスポの規模は日本の比ではありません。2012年1月に開催されたオートエキスポの展示面積は日本の2倍くらいあり、ものすごく混んでいます。出展社数は2109企業、海外から30か国、2013年11月末から開催された東京モーターショーでは出展社数175企業、11か国でした。来場者もインドは200万人、日本は84万人です。

展示されている車は非常に多彩です。日本のシビックやカローラといったファミリーカーは、インドでは高級車の部類に入ります。

各国の自動車企業は、インドのオートエキスポを、完全に「小型車の発信ショー」としてとらえており、世界から注目を浴びています。大きなパビリオンが35ありますが、そのうち中国が6、ドイツが3、台湾と韓国がそれぞれ1つ出展しています。しかし日本はパビリオンがなく、自動車メーカーの片隅に間借りしているだけです。こういう大きな市場の中で、なぜ日本の取り組みはないのか。情けない感じがしますね。

インドの乗用車マーケットシェアの変遷を見ると、1980年代はインドの車だけでした。徐々にパイも大きくなり、1990年代には日本のスズキが入ってきて日本が80%を占めるようになった。2007年からは韓国、欧米も入ってきましたが、日本はまだ58%を占めていました。2011年には各国入り乱れ、日本はまだ半分以上を占めていますが、シェアは確実に小さくなっています。つまり競争が激しくなっているのです。特に欧米系のメーカーの伸びが目立ちます。彼らは本国と同じ製法で、インドで作ってそれを輸出することを考えています。

「インドの自動車OEM体制とグローバル化の変遷」

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小型車が中心

インドの自動車の今後を考えると、やはり小型車でしょう。インドにおける自動車の平均購入価格は80万円くらいです。最も売れた車は「アルト」で、価格は50万円です。先ほどの購買力平価換算GDPで考えると、インドの50万円は日本では200万円の価値と同等です。日本の200万円は、日本人が車を買うときの平均購入価格です。

インドの世帯収入も富裕層、中間層がどんどん増えており、現在2億2千万世帯のうち、4000万世帯は80万円のくらいの車を購入できる世帯です。ただ現時点での保有台数は1600万台ですから、残りの2400万台はすぐにでも買える状況にあるということです。

 

アフターサービス、多様な選択肢が重要

インドでの販売の仕方を考えるうえで理解しなければならないのは、「口コミ社会」だということです。長幼の序を重んじ、長老のいうことを聞きます。ですから影響力のある人に話をつければ、そこから伝わります。

インドは娯楽も情報も少ないですから、2大娯楽である「ボリウッド」と「クリケット」をうまく利用した戦略が必要です。またブランド信仰が強いので、十分な宣伝も必要です。

インドではアフターサービスも重要です。日本の製品は壊れないのでアフターサービスがいらないというのは間違いです。逆に壊れてもすぐ修理すればいいので、何より値段が安いことが大事、Value for money重視です。

またインドは多様性の国ですから、いろんな人がいて、それぞれが自分の意見を言いたいし、幅広い選択肢の中から自分で選びたいと考えています。

「インドの消費者像」

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たとえばヒュンダイは、非常に幅広い製品ラインナップをそろえて、大規模な広告宣伝によってブランドを浸透させ、アフターサービスを充実させています。一番重要な点は、インドの実情を知ってそれを反映していることです。インドにいる日本人は全体で5000人程度ですが、ヒュンダイ1社だけで家族も含めて約3000人が現地にいます。みんな現地語を話し、情報を吸収して反映している。これがヒュンダイが短期間でスズキ次いで2位になった理由かもしれません。

車の販売台数を助長する要因を考えると、まず収入が増えること。これはクリアしています。次に道路は、都心近郊では整備されてきていますが、山間部に入るとまだまだです。そして販売店、サービス拠点を多く作ること。あちこちにあって、仮に壊れてもすぐに修理してもらえる状況を早く作ることが重要です。

 

インドの強みは「人」「議会制民主主義」

「インド進出・取引にあたっての留意点」

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インドの一番の強みは、質の良い安価な労働力。

学識者は英語を含む、3か国語を話します。ただしワーカーは現地語でしかコミュニケーションしません。プラス面としては、熱心、向上心、論理指向、適応性、好奇心。ですが協調性は低いです。

議会制民主主義であることも強みです。ただし物事が決まるのは遅いです。

カーストは法律的にはありませんが、現地に配慮は必要です。

離職率を見ると、ホワイトカラーは10~20%、エンジニアは30~40%で、このあたりは少し注意が必要ですが、ワーカーは10%以下です。現地のタタモーターズの離職率は3~4%。それだけ福利厚生などが充実しているのです。

インドは超学歴社会で、IIT(Indian Institute of Technology)が最高学府です。中国人、韓国人はIITに入って一緒に生活しているので、一緒に学んだインド人が高い地位についても、電話で話ができる仲になります。日本人がインドの地位の高い人と話をするには、下のほうから順にたどらなければなりません。ですから日本人もIITに入って一緒に生活するとか、早くインドに行って一緒に仕事をし、電話で話ができるようなネットワークを作ることが大事です。

インドのパワーは人材、人材の輸出が一番ではないかと思います。現にアメリカの経営者の30%はインド人です。これだけ優秀な人がいるということ、インド人がたくさん世界で活躍しているということを、知っていていただきたいと思います。

 

インドの弱みは「インフラ」「労働問題」

インドの弱みはインフラ整備の遅れと労務問題です。

インフラ整備は中国と違ってなかなか進みません。中国は独裁制ですからお金があれば道路をどんどん作ります。しかしインドは、決まるまでに時間がかかります。

物流も課題です。陸橋や環状道路、自動車専用道路を建設していますが、州を超すたびに税金がかかりますし、物流のスピード化をなんとかしなければなりません。

また電力不足でもあります。地域によって状態の良いところもありますが、北部や南部は、1日に2~3回停電します。28州のうちの、12州では30~40%をロスしていますし、ロスが50%を超えている州もあります。

このような課題に対してインド政府は、2007年から2012年までに5000億ドル、特にユーティリティ(電気、発電)に1670億ドルを費やし、そのほか空港、道路、鉄道、港湾、通信を整備しています。2012年から2017年にも1兆ドルを予定していますから、良くなることは確実です。

もう一つの問題は労働問題で、厳しい労働関連法規があります。ちょっとした問題で暴動がおきますが、結局問題は賃金と昇給と待遇です。

インド人管理者は、英語と日本語を話せるので、労働問題をインド人管理者に丸投げしてしまいますが、管理者がワーカーに指示すると命令になってしまう。現地のワーカーは、賃金と、仕事内容や役職などのプライドを大事にするので、日本人経営者が、通訳を介してでも現地語で直接ワーカーと話をして、理解してもらうことが大事です。

労務問題に対処するには、人事・労務担当には信頼できるインド人を雇うこと。出身地に配慮した採用をすること、女性も採用することなどです。いろいろな人を雇えば、争議も起こりにくくなります。そして福利厚生を充実させ、満足度を向上させることです。労務管理は、ワーカーを含むローカルスタッフとのコミュニケーションを図り、相互理解と信頼を作れるかということがカギになると思います。

 

品質は上がっているが...

インドには約5000社の自動車部品企業がありますが、インド部品工業会ACMAのメンバーは691社。日本のJAPIAは446社ですから、日本よりずっと多いことが分かります。

ACMAのメンバーのうちISO9000は576社が取得しています。輸出をするために、品質に対しては関心高く取り組んでいるのです。またコストに対しては日本の生産活動を取り入れるなどして、安くて良いものを作ろうとしていますし、物流ではできるだけ現場の近くに倉庫を置くなどして、Just in timeの方向になってきています。

インドの部品メーカーの生産領域では、エンジン部品、トラスミッション、ステアリングで50%を占めています。要するに機能部品の生産が多く、それだけ高いレベルの技術を持っていると思われます。

部品業界の変化を見ると、1990年代はOEMが20%で、80%はアフターマーケットであったのが、2009年にはOEMが80%になっています。それだけQCDを満足する製品が作れるようになったというのが、インドの部品業界の現状です。

ただし、差はあります。確実にロードマップに基づいて品質管理を行っている工場と、名ばかりの工場があるのも事実ですから、上手に選択しなければなりません。

品質確保はどのように行われているのか。実態を見てみると、プレスの後に、多くの人手をかけてバリ取りをしています。完成品も最終的に全数修正検査を行い、いい品物だけ出荷する。ですからOEMのメーカーに届くときは良品ですが、製造中は不良品だらけということです。しかし生産性が高くなれば人手では間に合わなくなります。人手を機械に置き換えることが、これから進出するうえでは非常に重要なことになります。ネジ業界は機械のほうが多いので、ここはあまり問題にならないかもしれません。

ものづくりのレベルという意味では、経営者の改善意欲は高い。しかし稼働率管理や生産効率、推進体制などは弱い。ここを改善してあげなければばらないでしょう。

「ものづくりのレベル」

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これからの車作りの考え方

先進国では、これからの車は買い換えや買い増しですから、魅力ある車作りが必要です。しかしインドのような新興国は移動手段として新しく購入するので、低コストな車作りが必要です。ただしどちらにも共通するのは、環境、安全、交通システムなどをきちっと守るということです。

車づくりは「すり合せ技術」といわれていますが、最近の車は最終的にコンピュータがすり合せを行っています。コンピュータで一番大事なプログラム作成は、インドが得意とするところ。インドの得意分野は、これからの車作りにうまく利用されるだろうと考えています。

一方で環境問題、地球温暖化、資源、エネルギーなどの社会的な要求を考えると、ボルトも高機能で高強度、しかも安くということが重要になるのではないかと思います。

 

重要なのは「人財」を育成すること

現地のトップは、日本は「Forward technology」、つまり先進的な技術を持っていて、素晴らしい作り方も知っていると認識しています。韓国は「Reverse technology」、作られたものをうまく利用して、それを適合するような製品を作る。中国は「Steal technology」、盗んでしまうという認識です。インドは「Management technology」。アメリカの経営者の30%がインド人だというものうなずけます。やはり人なのです。

これからのものづくりは、労務費の安さではなく、日本の「Forward technology」とインドの「Management technology」をうまく融合させて、「人財」を育成することが重要になるでしょう。

日本政府もインドへの投資拡大を後押ししていますし、インドと日本は基本的な価値を共有している。こういうことを踏まえて、進めていく必要があると思います。

 

以上、第一部。

 

(記事 ワッツコンサルティング㈱ 杉本恭子) 

海外短信 ネドライトテクノロジーGmbH.
2013年07月20日    カテゴリ:07.海外情報 
 
会報ねじのカテゴリー07:海外情報を担当するチーム(長谷川裕恭氏、打本照治氏)が活動開始しました。海外進出拠点に駐在する方々から届く情報を掲載して参ります。
 
第1回目は、ドイツにあるネドライトテクノロジーGmbH.の永谷 純也様からのお便りです。
 
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会社名:ネドライトテクノロジーGmbH.
 
 ドイツ西部、プラッテンベルグ。山に囲まれた人口約3万人の、緑豊かな谷間の町です。オランダのネドシロフホールディングスと株式会社メイドー他、日系3社で設立されたファスナー販売拠点。製造はネドシロフの設備と人を活用し、品質管理と販売をネドライトにて管轄しています。
 
 ネドシロフ社は、ボルト、ナット、スクリュー、ネットシェイプ製品を欧州各地で生産する総合ファスナーメーカーです。製品販売に加え、設備も販売しています。近年は、売上が欧州一を誇っています。
 

1 ネドシロフ ホールディング(オランダ).jpg

 ネドシロフ ホールディング(オランダ)

 
 
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ネドライト社が入るネドシロフ プラッテンベルグ工場
 
 
 親会社である(株)メイドーから日本人駐在員を派遣し、TQM活動にて充実した品質管理プロセスをネドシロフへ水平展開することで、日本のお客様にも満足の行く品質の製品を提供しています。
 
 駐在員からは、日本と異なるドイツの文化に戸惑うことも多くあると報告を受けており、独自の文化を理解したうえで、業務を行うことの大切さを感じています。その駐在員からドイツの文化の一部を垣間見ることができる話を聞きましたので、ご紹介します。
 
 
「ドイツにまかせろ」
 
 ドイツ人には、生真面目で頑固者というイメージがぴったり当てはまるような得意技?があります。育児、犬のしつけ、そして掃除です。
 
 ドイツ人の子供のしつけに対する情熱はとても高く、街中で行儀の悪い子供を見る機会はほとんどありません。小学校が午前中で終り、午後は家庭で、本人の自主性による学習を推奨する文化も影響しているのかも知れません。最近は学習時間の短さによる学力低下も指摘されているようですが。
 
 犬のしつけの良さは、町のいたるところで目にすることが出来ます。なぜなら、犬は公園などの屋外だけでなく、電車、デパート、レストランなど、基本的にどこでも飼い主と一緒に行くことができるのです(スーパーは駄目のようです)。特にレストランで犬を見かけると、飼い主がおいしそうに食べている姿を横目に、おとなしく床で寝て待っている姿を見ると、しつけの良さを実感します。
 
 ドイツ人の部屋はいつでもきれいというのは有名な話です。掃除はお客が帰った後にする習慣があり、常に片付いているのです。だから、いつお客が急に訪ねてきても大丈夫なのです、また、料理もキッチンを汚すような料理(特に揚げ物)はなるべくしないという徹底ぶり。掃除に対する姿勢も真剣で、さまざまなアイデア商品を駆使してすみずみまで磨き上げます。スーパーの一角には掃除グッズがあふれており、日本でおなじみのものが実はドイツで開発された、ということも珍しくありません。
 
 こんなすばらしい「ドイツにまかせろ」という文化も、最近の移民の増加や若者の伝統離れなどから失われつつあるようです。どの国も良い文化・伝統を守ることは難しいのでしょうか。
 
    

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スーパーには便利な掃除グッズが並ぶ

 
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レストランやカフェに犬同伴は当たり前
 
 
記事、写真ともに永谷純也氏 
製造業の海外移転を考える(野口先生のブログから)
2011年11月26日    カテゴリ:07.海外情報 

 野口悠紀雄先生のコラム「震災復興とグローバル経済――日本の選択」がシリーズでブログに掲載されています。未来開発パブリシティ委員会の関心事の一つに「海外動向」があがっています。その参考として情報提供させていただきます。

・ 産業構造は、継続的な円高、震災による国内生産条件の変化で大きく変わった。これらは構造的な変化で、経済に対する考え方、政策のあり方も見直すべきだ。

・ 海外生産比率は、特に機械産業において顕著な増加があったが、進出企業の戦略は、現地の需要に対応しようとするものが多い。

・ この結果アジアにおいては、日本の製造業は、海外生産で安い労働力を使って安いものを作り、結果として低価格競争に巻き込まれて行かざるを得ない。このような従来型の海外生産は製造業を衰退させる。

・ 今後は、アジア新興国の需要に対応するよりは、日本の需要に応えることを目的とすべきであり、エネルギー消費の大きな産業を移転すべきだ。

などなど、興味深い提言がみられます。あくまで、経済学の立場、マクロな立場からの視点ですが、それらを参考にしつつ、企業の立場からは、それぞれにとっての戦略的な意味(進出目的)を明確にしてゆくことが大事だと思います。

尚、掲載されているURLを最後に紹介いたしますが、シリーズで大変長いものです。以下、日本企業の海外移転に関係する部分をサマリーさせていただいたので、参考にしていただければ幸いです。


【以下サマリー】―――――――――――――――――――――――――――

東日本大震災によって日本経済の条件は大きく変わった。4月以降の貿易収支の大幅な赤字化、震災による国内生産条件の悪化などである。企業(特に大企業)の生産拠点の海外移転の動きは円高によるものだが、生産条件の変化に対応していっそう加速するであろう。電力供給の不確実性、電力料金の上昇、復興投資による金利上昇などによって、国内での生産や投資はますます不利になる。これらの変化を受け止め、経済に対する考え方を大きく変える必要がある。

(1) 国内の産業構造を、これまでと同じものに維持する必要はない。大震災で日本の比較優位は大きく変わったので、この機会に産業構造を大きく変えるべきだ。企業はすでに生産拠点の海外移転を進めているので、それを押しとどめてはならない。雇用創出は、国内に新しい産業を作ることによって行うべきだ。

(2) 新しい産業によって脱工業化が進めば、電力需要も減る。それでも電力が不足するのであれば、無理して火力発電へシフトするのでなく、製品輸入を増やすべきだ。これは、外国の電気を間接的に購入することを意味する。

(3) 新しい産業を興す場合、日本人だけを雇用しようとするのでなく、外国人専門家の活用を考えるべきだ。

(4) 復興財源に関しても、日本が保有する巨額の対外資産の活用を考えるべきだ。国際収支においては、貿易収支の黒字化をめざすのではなく、所得収支の黒字拡大をめざす必要がある。

 これらの方向付けは、そもそも震災以前から必要とされていたものだ。つまり、震災による変化は、進むべき方向を変えたのではなく、その方向を選択する必要性を強めたのである。

 海外生産比率の増加についても、構造的な変化を見る視点が必要である。

 海外生産比率は、機械産業、とりわけ、情報通信機器(26・1%)、輸送機器(39・3%)において高い水準になっている(数字はいずれも国内法人ベース)。大企業によって行われている組立型の生産活動は、すでにかなりの程度、海外に移ったことがわかる。

 自動車について企業別に海外生産比率を見ると、ホンダ72・9%、日産71・6%、スズキ61・5%、トヨタ55・9%と、生産の過半は海外で行われている。OEM(相手先ブランドによる生産)メーカーやファウンドリー(半導体チップの生産工場)への委託による海外生産を含めると日本製造業の実態的な海外生産は、上の数字以上に進んでいると考えることができる。

 日本企業の海外移転は、リーマンショックによる経済危機までの10年間中断していた。昨年夏ごろから生じている海外移転は、つまり、この10年間の円安バブルによって一時的に中断されていた動きが再開しただけのことである。それまでは円安が続いていたので、外国から見た日本の賃金は低く抑えられていた。そのため、海外移転の必要性は緊急の課題ではなかった。しかし経済危機後に円高が進み、ドルで評価した日本の賃金は上昇した。だから海外生産の有利性が高まった。とりわけ労働力を多用する組み立て型製造業の海外移転が進んでいる。

経済危機によって、国内法人の利益率が急減し、国内生産と海外生産の相対的な関係性が逆転し、海外生産が圧倒的に有利になったのである。需要の減少は世界的だったことを考えれば、国内と海外でこのような利益率の差が生じた大きな原因は円高にあったと考えることができる。

 震災以降の今後を展望すると、電力コストの上昇によって、国内の利益率はさらに下がるだろう。そして、それは電力多消費産業である製造業において顕著に生じることだ。だから、移転を阻止するのは不可能だ。それを所与として、国内での雇用創出を目指すしかない。それをいかなる方策で行うかが重要な課題だ。

従来型の海外生産は製造業を衰退させる

製造業だけに限ると、現地法人の従業員はで368万人だ(基本調査」)。ごく最近の数字との関係を見るために「海外現地法人四半期調査」を見ると、10年10~12月で357・1万人だ。これは、日本の製造業の総雇用者1004万人の35・6%であり、かなり高い比率と考えることができる。

 進出企業の戦略は、現地の需要に対応しようとするものだ。つまり、「日本人が使うものをアジアの工場でアジアの労働力を用いて生産する」ということではない。日本企業は、安価な労働力を求めているというよりは、安価な需要を求めているのだ。そして、アジアの場合、売れるのは低価格製品が中心で、従業員1人当たりの売り上げは国内の半分と少ない。ただし、低賃金なので国内生産より利益率は高くなる。

これを簡単にいえば、日本の製造業は、海外生産で安い労働力を使って安いものを作り、その結果利益が増加しない。アジア進出は製造業発展のために役立っているとはいえない。このような形態の進出が望ましい形なのか否かには、大いに疑問がある。

 本来であれば、高い技術を用いて高品質の製品を製造し、高い付加価値を実現すべきだろう。しかし、現実には、低価格製品の価格競争に巻き込まれていると考えざるをえない。いわば日本製造業の劣化が進行しつつあるのだ。生産性を高めるのでなく、需要だけを追い求めている。日本企業はこれまでも利益を追求するのではなく、量的拡大のみを追い求めることが多かった。それが海外進出にも引き継がれているのだ。

 ところで、09年以降の海外進出の円高を背景とした加速、また、大震災による日本経済の条件変化も、新しいタイプの海外進出を促している。こうした変化を反映して、今後の海外進出がこれまでとは異なる性質のものになることを望みたい。特に次の2点が重要だ。

 第一は、低価格競争からの脱却だ。これを実現するには、アジア新興国の需要に対応するよりは、日本の需要に応えることを目的とすべきだろう。

 第二は、業種が変わることだ。これまでは、海外進出は組立型の機械産業が中心だった。今後は、エネルギー消費の多い装置産業が移転することを望みたい。これは、日本に対する供給基地としての役割を果たし得るだろう。

 高価格製品の場合と同じ生産設備を用いて低価格製品を生産すると、固定費は比例的には縮小せず、したがって産出物価値に対する付加価値の比率が低下するのであろう。その意味で、低価格製品は効率の悪い生産なのである。そのため、低賃金国で雇用者報酬を圧縮できても、利益率が高価格製品よりは低下してしまうのだ。それにもかかわらず、現実に売り上げが伸びている地域は、1人当たり売上高が最も低い「その他アジア」である。つまり、日本の製造業は、これまでよりさらに、低価格製品にシフトしつつある。

従来のやり方では、日本の製造業は衰退する。その理由として一般に指摘されているのは、次の3点だ。

(1) 国内雇用が流出する(雇用の量的側面でのマイナス効果)

(2) アジアの低賃金に引かれて日本の賃金も下落する(雇用の質的側面でのマイナス効果)。これは日本の中国化だ。

(3) 製品に差別化特性がなく、価格引き下げ競争に巻き込まれる。

 それに加え、ここで述べたように「低価格製品であるため、産出額に対する付加価値率が低下し、低賃金労働を用いても利益率を高められない」という問題があるのだ。

 第一は、差別化した製品の生産を増やすことだ。アップルの製品であっても、中国での需要増大が顕著という。しかし、これは薄型テレビなどのような激しい価格競争には巻き込まれにくい製品だ。

 第二は、アジアの現地需要を取り込もうとするよりは、これまでの電気器具のOEM生産のように、日本の需要に応えることを考えることだ。

 第三は、組み立て型製造業だけでなく、エネルギー多使用型製造業の海外立地を考えることだ。

 第四は、製造業だけでなくサービス産業、なかんずく金融の海外進出を考えることである。

 これまでは、「ものづくりこそ日本の使命」として、製造業を維持しようとしてきた。しかし、円安政策は製造業の生産を増やしはしたものの、雇用を回復させることはできなかった。そして、経済危機後は、雇用調整助成金によって雇用を支えてきたのだ。それ以降進行した円高と震災後の電力不足によって、こうした政策では雇用を支えきれないことが明らかになっている。


【出展 URL】――――――――――――――――――――――――――――

コラム・連載 / 野口悠紀雄の「震災復興とグローバル経済――日本の選択」

http://www.toyokeizai.net/business/column/detail/AC/e69ff988cb31baf438acfb94c3a4927c/
(第9回)製造業の海外移転で300万人の雇用減(1) - 2011/08/08 12:16
http://www.toyokeizai.net/business/column/detail/AC/1bee2ce94765f298b94813b76ee5e3fa/
(第6回)震災後に加速している製造業の海外移転(1) - 2011/07/19 12:13
http://www.toyokeizai.net/business/column/detail/AC/f9df2a48798acd1d3bd2fffbe52d47ac/
(第5回)税制を歪めて減税し海外移転を促進した(1) - 2011/07/11 12:13
http://www.toyokeizai.net/business/column/detail/AC/bc140b5397526cd37cac707f494fdaea/
(第4回)低価格製品シフトは製造業を衰退させる(1) - 2011/07/04 12:18
http://www.toyokeizai.net/business/column/detail/AC/25f4e0a7178117a2fa7ddccc7f407b35/
(第3回)従来型の海外生産は製造業を衰退させる(1) - 2011/06/27 12:13
http://www.toyokeizai.net/business/column/detail/AC/87c7b17661081b6266eebad66838739b/
(第2回)円安で中断していた海外移転が再開した(1) - 2011/06/20 12:13
http://www.toyokeizai.net/business/column/detail/AC/6350599788039b2823f70dc426c814ae/page/2/
(新連載・第1回)条件が変わったのに考え方はもとのまま(1) -2011/06/13 12:03

以上