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【中小企業施策活用インタビュー第1回】 イズラシ

2012年10月18日

ハードルが高くても、やってみる価値はある

~ 「国内立地推進事業費補助金」に採択されたイズラシ ~
 
 
 株式会社イズラシは、平成24年8月20日に新本社および沼津工場をオープンし、同9月21日に竣工式を行った。沼津工場の設備投資にあたり、平成23年度の経済産業省の補助金申請にチャレンジし、採択された。

 どのようにして申請書類を作ったのか、どんな苦労があったのか、沼津市大岡の新本社に、代表取締役の堤親朗氏、実際に申請に取り組んだ常務取締役の河上浩三氏を訪ね、話を伺った。

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株式会社 イズラシ 2012年9月に竣工した新本社

 

 

 

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 インタビューサマリー

  ・ 「補助金の対象になるかも知れない」

  ・ 公募要綱や申請書類は難解。アドバイスを受けながら書類を作成した

  ・ 投資計画があっての補助金。補助金ありきではなく、基本は計画に則ってやること

  ・ いつもトライしたいことがあるから、アンテナが働く

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「補助金の対象になるかもしれない」

―― 今回申請が認められたのは、どういった補助金ですか?

 平成23年度 第3次補正予算の一貫で公募が行われた「国内立地推進事業費補助金」です。国内に設備投資をすることが前提で、サプライチェーンの強化や雇用の維持が目的です。沼津工場建設の設備投資が補助金の対象になるかもしれないと思いました。

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応募のきっかけを振り返る堤社長

 

 

河上 発端は、社長の堤が「こんな補助金がある」と言ったことでした。この補助金を知ったときの最初の感想は、公募の期間がとても短いということです。11月29日付で公募が開始されて、申請書類の締め切りは12月28日必着。あまりにも短いうえに、公募要綱を読んでもよく分かりませんでした。

―― 最初に何をしましたか?

河上 まず経済産業省の出先機関に話を聞きに行きました。そもそも公募の対象になるのかも分からなかったので。聞いてみたところ対象になるというお返事をいただけたので、やってみようと。他には、建物も含まれるのか、検査の機材の購入はどうかなども聞きました。建物そのものは対象にならないが移設費用は対象になる、また検査の機材は生産設備に含まれるので対象になるということでした。

 

公募要綱は難解。アドバイスを受けながら書類を作成

―― 短期間でどのように準備したのですか?

 弊社の場合は、コンサルタントに入ってもらいました。必要書類を全部自力で仕上げるのは、実質不可能だと思います。大手の企業なら、社内に専門の部署があるかもしれませんが、中小企業には難しいでしょう。

―― ご苦労もあったと思いますが。

河上 たとえば、「市場における優位性及び技術の革新性」という項目があるのですが、普段あまり考えませんし、我々の感覚ではどう書いたらいいのか分からない。業務の中身をコンサルタントの方に説明しながら、一緒に考えていきました。第三者にも理解して頂けるように推敲を重ねましたが、意図することが正確に伝わった否かは定かではなく、そのあたりも難しいところですね。

 サプライチェーンの強化ということから、BCP(事業継続計画)の項目もありました。既存の戸田地区の工場は、海抜6m、海岸まで300m弱なので、沼津市大岡という場所に進出すること自体がBCPになります。自動車業界そのものがサプライチェーンで成り立っているということも謳いましたし、お客様から「サプライチェーン強化のお願い」という書面をいただいたりして、強化が必要だということを説明しました。

―― 「輸入代替性の高低」「海外流出懸念関係性」はどのように記載しましたか?

河上 「輸入代替性の高低」には、取引先から「品質」を支持されていること、また製品の独自性、正確性、多品種・小ロット生産、短納期対応などにより、輸入代替性を低減しているとしました。

 「海外流出懸念関係性」は、補助金が交付されなかった場合に海外進出を考えるかという質問ですが、従来から国内産業と雇用を維持する使命を認識していること、国内生産の維持に不可欠な分散化、製造原価低減のために、補助金がなくても国内の工場進出は進めるとしました。

―― 提出書類は全部でどのくらいありましたか?

河上 指定の書式と添付資料、決算報告書など、全部を印刷すると1cmぐらいの厚さになりました。それを20部コピーして、CD-Rにも入れて送付しました。段ボール箱に詰めて発送したことをよく覚えています。しばらくして、書類を受理したという連絡が来ました。

 それから同じような書類を3月にも、やはり20部コピーして発送しました。そのあとに決定通知書が届きました。

―― 決定の知らせを聞いたときは?

 河上から「たぶん大丈夫です」と言われたときは、うれしいなんてもんじゃない。河上は、通知書が来るまでは糠喜びにならないようにと言いましたけど、そりゃうれしいですよ。当初は投資額の2分の1が助成されるということだったのですが、応募が多かったために最終的には4分の1になりました。でも、ハードルは高いかも知れませんが、補助金の対象になる要件を満たしていればトライする価値はありますし、たとえ失敗しても必ず次に繋がる経験を積むことが出来ると思います。

河上 決定前に、一度「4分の1でもいいですか」ってお尋ねがあったのは覚えています。ちょっと考えましたね。「2分の1でなきゃ困ります」と言った方が良かったのかなって。

 

投資計画があっての補助金。基本は計画に則ってやること

―― 補助が認められたことで義務もあると思いますが。

河上 補助によって取得した財産を維持、管理することや、一定期間処分してはいけないなどの義務があります。報告書の提出も義務付けられていて、計画通りに実行されているか検査が入ります。

違和感があるのは、設備の購入にあたって3社から見積もりを取るように言われていることです。実際、中小企業で商社を3社も使い分けているところなんてありませんよね。1社でしか見積もれない理由を述べればよいそうですが、大企業と同じことを中小企業にも当てはめているという点では、やりにくさはありますね。

 たとえば、あるメーカーの試験機を、Aという商社を通じて買うとします。メーカーは、商社Aから見積もり依頼が来たら、同じエンドユーザー向けの見積もりを他の商社には出しませんよね。だから3社から見積もりなんて、実際取れないんですよ。同じ能力の別のメーカーの製品で見積もりを... といわれても、「その」試験機が必要なんですから。

 弊社の工場専用の設備だって専用の下請けにお願いしているので、他から見積もりは取れません。この辺の事情は、大企業でも同じだと思いますよ。コンサルタントの方は、説明の仕方を心得ているのでしょうね。

―― 今回の補助金はいつ交付されるのですか?

河上 計画の完了後、報告書を提出して、そのあとに検査が入り、検査が通ってから補助金が交付されます。まだ手にしたわけではないので、社長には「取らぬ狸の皮算用ですよ」と言うんですけどね。

―― 交付のタイミングは、サポインとは違うようですね。

 サポインのような研究開発の補助の場合は、商品になるかどうかわからないけれど、市場やユーザーのニーズがあって、それを満たすものを作るという計画が認められれば費用を出してくれますね。

河上 そういう意味では、今回の補助金はハードルが高かったのかもしれません。でも、やると決めたらどちらでも同じことです。

―― 補助金の申請は通っても、交付が確約されなくては見通しが立たないのでは?

 弊社の場合は、補助金ありきではなく、工場を作るという計画が先にありましたから、補助金があっても、なくても、基本的には計画に則ってやるだけです。

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「いつもトライしたいことがあります」と堤社長

 

 

 

いつもトライしたいことがあるからアンテナが働く

―― 補助金のことはどのようにして知ったのですか?

 20年ぐらい前から、沼津に営業所とセンターを作りたいと考えていましたが、こんなに大きく作るつもりはありませんでした。10年ほど前に営業所を出したことがきっかけで、いろいろな方と知り合うことができ、土地のお話もいただきましたが、私は沼津しか考えていませんでした。あるきっかけで、2007年の技能五輪の跡地利用の公募を知り、応募したところ弊社が選定されました。その頃から、何か補助金があるのではないかとアンテナを張っていました。リーマンショックがあっため建設は一旦中止しましたが、2年後に着工した直後に今回の補助金のことを知りました。

 何かで読んだのだったと思いますが、アンテナを張っていたから情報が入ってきたのだと思います。

―― 補助金へのチャレンジは初めてですか?

 跡地利用が認められた後に、2回チャレンジして落ちているんです。一つは静岡県の助成金で、対象の業種にねじ業界が入っていませんでした。ステンレスを冷間圧造して異形状を作る、タービンの部品にトライしました。かなり難しい部品で、それで申請することにしたのですが、結局は「ねじ屋」だからという理由で通りませんでした。

 今回の補助金にチャレンジするにあたっても、前の二の舞はいやだなという気持ちもありましたよ。

―― トレーニングマシンの製作も始められたそうですが。

 リハビリに使えるマシンの製作に着手しています。技能五輪の跡地利用はファルマバレープロジェクトの一環で、健康・医療関連であることが必要だったんですが、ある企業から、東大の先生がアスリートのために研究している「認知動作型トレーニングマシン」を紹介されました。そのマシンは、体の内側にある筋肉を鍛えたり、脳を活性化させるなどリハビリにも効果があるので、それを弊社でも作ることにしました。設計図を頂いて、デザインを変えて。すでにできているものもありますが、来年春には次のマシンもできます。

新しい工場には、社員のためのジムを作るつもりでしたから、前からトレーニングマシンに興味はありました。ここにもアンテナが働いていたのでしょうね。

―― これから補助金にトライする企業のために、一言お願いします。

 弊社の場合は、タイミングがよかった、ラッキーだったと言えるかもしれません。でも、今までも難しいことにトライしてきたし、トライしたいことがあるからアンテナが働くのだと思います。

 

株式会社イズラシ ホームページ: http://www2.ocn.ne.jp/~izurashi/home.html

 

※ ファルマバレープロジェクト

 静岡県が、県東部地域を中心に、地域の民産学官が協働して推進しているプロジェクト。平成8年、県立静岡がんセンターの基本計画策定時に「県立静岡がんセンターを核にした医療城下町を作ってはどうか」との意見に端を発して、平成13年、富士山麓先端医療産業集積構想(ファルマバレー構想)を策定した。

(出典:富士山麓先端健康産業集積プロジェクト「ファルマバレープロジェクト」http://www.fuji-pvc.jp/

 

<参考>

・ 平成23年度3次補正予算「国内立地推進事業費補助金」の公募について

  http://www.meti.go.jp/information/data/c111128bj.html 

・ 平成23年度「国内立地推進事業費補助金」の一次公募の採択結果について

  http://www.meti.go.jp/press/2011/02/20120203001/20120203001.html

 

                     (取材&記事 ワッツコンサルティング㈱ 杉本恭子)