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【中小企業施策活用インタビュー第3回】 富士セイラ株式会社

2013年11月09日

申請することが社員教育。都や区の支援事業も好機として活用
~ 「薄板用プレススタッドの圧造・転造」で経産省支援事業に採択 ~

 

 富士セイラ株式会社は、昭和2年(1927年)に東京府下大崎町で創業。その後現在の本社所在地に移転して以来、品川区および都内城南地区に根ざしたネットワークを築く一方、市場に呼応し国内各所や海外にも拠点を展開する。
 同社は、この度「ものづくり中小企業・小規模事業者試作開発等支援事業」に採択された。同社にとって、助成金へのチャレンジはどのような意味をもつのか、6代目である代表取締役社長の高須俊行氏、代表取締役常務の平野勲氏に伺った。

     インタビューサマリー
     ・ 一次は落選、反省を活かして2次で再チャレンジ
     ・ 「市場ニーズへの対応」という要件に合致
     ・ 申請すること自体がノウハウとなり、スキルアップできる
     ・ BtoBからBtoCまで。社会で必要とされる会社になる

 

1次は落選、反省を活かして2次で再チャレンジ

―― 今回採択されたのは、どういった助成金ですか?
高須 経済産業省の平成24年度補正「ものづくり中小企業・小規模事業者試作開発等支援事業」です。
 その目的として公募要項には、
「試作品の開発や設備投資等に要する経費の一部を補助することにより、ものづくり中小企業・小規模事業者の競争力強化を支援し、わが国製造業を支えるものづくり産業基盤の底上げを図るとともに、即効的な需要の喚起と好循環を促し、経済活性化を実現すること」と書かれています。

IMG_5780.jpg
                    高須社長→

 

 平野 試作開発をする工場のある都道府県に申請するものでした。開発自体は栃木県にある芳賀工場で行うので、栃木県に申請しました。

 ―― 助成を受ける事業の期間は?

平野 試作開発期間は8月末の採択から約1年間です。採択が決定してからも手続きがあり、10月25日までに事業計画などを記載した「補助金交付申請書」を提出しました。その審査が終わって補助金交付が決定するのは、おそらく12月ごろになるのではないかと思います。そこから来年8月15日が事業完了期限なので、実質1年はありません。
 見切り発車も可能ですが、補助金交付決定前の支出は対象になりませんし、補助金交付申請書が通らなければ、補助を受けられるかどうか分りません。また事業完了後に、会計書類、証拠書類等、「補助事業実績報告書」を提出して、審査を受けて補助金額が確定します。それまでの間の資金は調達しなければなりませんので、申請書類には資金調達方法も記載します。

IMG_5779.jpg←担当された平野常務

 

―― どのくらいの助成を受けられるのですか?
平野 補助対象となる経費の3分の2以内で、上限は1000万円です。
 対象となる経費は、原材料費、機械装置費、外注加工費、技術導入費、直接人件費、委託費、知的財産権関連経費、専門家謝金、専門家旅費、運搬費、雑役務費の11区分です。
 当社の場合は、原材料費、機械を購入する機械装置費、メッキや熱処理などの外注加工費、直接人件費、試験を頼んだりする委託費、また特許を申請する予定なので知的財産権関連経費、そして専門家のアドバイスを受ける専門家謝金で申請しました。

―― 申請の準備ではどのようなことに苦労されましたか?
平野 まず大前提として、どのような事業を対象としているのか、どのような趣旨の助成金なのかを理解しなければなりません。そして、決められた文字数の範囲で簡潔に、あるいは図などを使って分りやすく説明する必要があります。
高須 今回採択されたのは2次公募ですが、実は1次公募のときにもチャレンジして、そのときは採択されませんでした。1次のときは、モノの開発にプラスして、販売のためのシステムも一緒に申請したのですが、希望的観測で範囲を広げ過ぎたことで、おそらく趣旨から逸脱していたのだろうと思います。

 

「市場ニーズへの対応」という要件に合致

―― 今回採択された事業はどのような内容なのでしょうか。
高須 「薄板用プレススタッドの圧造・転造加工の製法技術開発及び設備投資」です。そもそもは、お客様から薄板用のプレススタッドの要望があったことがきっかけです。当社はすでに溶接系の圧着はやっているので、一番需要が見込めそうなM3 ~M5を作ろうと考えています。


―― なぜ採択されたのだと思いますか?
高須 やはり市場性ではないかと思います。募集要項の要件の一つにも、「顧客ニーズにきめ細かく対応した競争力強化を行う事業であること」とあり、ニーズありきという部分で助成金の趣旨と合致したのだと思います。薄板にすれば材料が減るので省資源で、安価になる。そのあたりの市場を狙っているということは、申請書にも明確に記載しました。
 新規性という意味では、削って作るのであれば、現在も同じ用途のものはあります。ですが加工方法自体を、圧造、転造にすることで、切粉をなくすことができる。プレススタッド自体の原材料費は、切削に比べて約40%削減でき、タクトタイムも6分の1になります。

―― 新規の技術でなくても、現在の市場のニーズに合致すれば採択されるのでしょうか。
高須 市場性はもちろんですが、今回の助成金に関しては、切粉が出ないことにより省資源に繋がる、また生産効率アップという点で、世に役立つ技術ということもあったのだと思います。
 他の助成金では、国内で唯一無二の技術であることが要求される場合もあると思います。

―― 採択されたときは?
高須 うれしいというよりは、ほっとしたという感じでしたね。今回は「絶対にとるぞ!」と思っていましたから。

―― 採択されたことによって社員に変化はみられますか?
高須 申請までに時間がなかったので、限られた人間で準備しましたから、社内全体の変化はこれからだと思います。計画は担当者の方で作るようにしていますし、この機会を有効に活用するようにと伝えています。

―― 実際に試作開発が始まると、報告するための記録を残すことも大変なのではありませんか?
高須 ものづくりのデータや検証のデータが、一番大変かもしれません。うまくいかないことも出てくると思いますしね。

 

申請すること自体がノウハウとなり、スキルアップできる

―― これまでにもいろいろな助成金にチャレンジしているそうですね。
高須 国の助成金が1回、品川区で2回、昨年東京都の「受注型中小企業競争力強化支援事業助成金」にも採択されたので、今回で5回目になります。チャレンジという意味では、採択されなかったこともあるので、もっと多いです。でも一応「勝ち越し」ですね。


―― なぜチャレンジするのですか?
高須 採択されるかどうかは別にして、頭を使っていないと、みんな滅びちゃいますから(笑)。
 結構勉強になりますよ。書類の作り方、申請の仕方、プレゼンをしなければならない場合もありますし。一つのOJTですね。ですから積極的に活用して、それで費用を補助していただければ一石二鳥です。
 展示会などでお客さまに商品を紹介するときも、助成金の対象になっているというと、ちょっと違います。公の機関から認められたということですから。カタログに記載できますしね。

―― たびたび書類を作るのは大変ではありませんか?
平野 手間ひまかけて準備するのも大変だし、採択されたあとも大変ですね。でもだんだん慣れてきました(笑)。
高須 平野は慣れてきたので、これからローテーションです。他にもできる人を作っておかなければいけないし、本人の能力が上がって、ノウハウも蓄積できますから。
 都とか区の助成金は比較的競争率は低いと思います。国のほうは金額が大きい分ハードルの高さを感じます。

―― 専門家のアドバイスは受けますか?
高須 区の支援事業である「ビジネス・カタリスト」にお願いしました。実務経験者や各種の専門家が区のカタリストとして登録していて、相談にのってくれる制度です。都の助成金のときにもアドバイスしていただきましたし、今回も同じ方にお願いしました。

―― 品川区は特に支援が充実しているのでしょうか。
高須 本社のある品川区、工場のある大田区とも支援は充実しています。ただし、もともと品川区は大手メーカーの本社がある地域で、付随するモノづくりの会社がたくさんありましたが、最近は大田区に比べると激減しているため、熱心な企業は比較的採用される確率も高いと感じています。
 そのせいか、カタリストの方もときどき様子を見に来たりしますし、品川区で何か支援事業があるというと、「やってみようか」という気になります。他の自治体にも、同じような支援は何かしらあると思いますよ。

―― 自治体の支援は活用したほうがよさそうですね。
高須 税金を払っていますから、フル活用ですね(笑)。来月はタイで、日本の機械要素展のような「METALIX」という展示会がありますが、出展費用を区が補助してくれるので、それを活用して出展します。
平野 加えて、品川区の「環境ビジネスの支援事業」にも申請していて、11月に面接があります。また、東京都では「展示会等出展支援助成事業」に採択され、展示会出展費用の補助を受けましたので、10月30日から開催された「産業交流展」の出展費用に活用しました。
高須 助成金ではありませんが、都の販路開拓支援事業にも「防水機能付きねじ」を申請して、プレゼンや面接を経て認定してもらいました。大手企業の出身者を中心とした「ビジネスナビゲーター」という人がいて、取引のマッチングや販路開拓などの相談に応じてくれます。
平野 普通ならアポイントが難しい企業にも、会いに行かれますからね。これは活用していきたいですね。
―― さまざま支援事業の情報はどのようにして得ているのでしょうか。
高須 いろいろな支援事業に申請することで、区や都、あるいは県とのつながりができるので、案内がくることもありますし、カタリストの方から聞くこともありますね。国の助成については、日本ねじ工業協会の会合で配布される経済産業省の資料が基点になるケースも多いです。

 

BtoBからBtoCまで。社会で必要とされる会社になる

―― 御社では現在どのような市場を対象としておられるのでしょうか。
高須 分野としては、電気・家電が約73%、産業機器が約16%、自動車はボディーに使う部品ではなく電装品で、7%ぐらいです。自動車関連は昔はゼロに近かったのですが、最近は増やすように努力しています。
 家電が中心でしたので、小さいねじが得意で、現在はS0.8から作っています。また小さい家電は海外進出が早く、当社の最初の海外拠点も1995年に中国の昆山に作っています。いま小さいねじは、国内の仕事を確保するのが大変になってきています。大きいもののほうが国内に残るので、大きいものも作らなければと考えて、少しシフトしています。
 西のほうのねじ屋さんは、モノづくりと商社が分れていますが、われわれのほうは製造と販売を行っているので、ほとんどが直需です。
 事業内容としては、ねじ、特殊冷間圧造、精密加工品、ダイキャストはフィリピンの工場でやっていて、治工具や金型も一部作っています。

―― お客さまは一部上場から中小企業まで約1000社とのことですが、どのような体制で対応しているのでしょうか。
高須 当社の国内、海外の自社工場だけでは足りないので、材料、メッキ、二次加工など600社ほどとネットワークを組んで対応しています。
 われわれの取り組みの特徴としては、2008年、リーマンショックの直前に栃木に作った物流倉庫があります。自動車ほどではなくても、電気業界も「カンバン方式」を一部取り入れています。ねじといえども材料購入から考えるとリードタイムがかかりますが、一方で納期は今日、明日のということになるので、そういう要求に対応するために物流倉庫を作りました。所要条件等の取り交わしをさせていただいているお客さまには、夕方ぐらいまでに連絡をいただければその日に出荷、翌日着ができる体制にしています。

―― トレーサビリティにも力をいれておられます。
高須 トレーサビリティは、商社ではなかなか難しいでしょうね。これは製造しているからできる、最大のメリットかなと思います。材料とか工程とか、自分たちでやっているので確認できますから。理屈はどこから何を買って、どこで何を作ったかが分っていればできるとはいえ、実際にやるとなると結構難しいのかもしれません。
平野 われわれも、かつてはできませんでした。昭和51年ごろに日本工業規格の認定をとったときに、全部のトレーサビリティが必要ということで体制を整備しました。
 最近は、ISOがとれればいいと言って、JISは取らないところも多くなっていますね。
高須 ねじも安心感とか信頼性という意味で、ブランド化は必要かなと思います。

―― 今後どのようなことに力を入れていかれますか?
高須 コアなところでは、まずBtoBの拡大、つまりいろいろなお客さまの深掘りや新分野の開拓です。基本的にお客さまの要求に応じて製品を開発してきましたが、企画から提案できる形を目指していきたいと考えています。それと同時に、BtoC、つまりコンシューマというすそ野も広げていきたいと思っています。
 今年6月にはねじのWebストアを始めました。数本から購入可能ですが、Webサイトでねじを販売しているところは他にもあるので、後発のわれわれとしては差別化をはかろうと、有害外物質を含まないねじ「グリーンスクリュー」として商標登録をして販売しています。green screw.jpg

 上場企業のお客さまからの要求で、ずいぶん前から環境データシートなどの提示をしてきましたので、ネット販売でも対応できるようにしています。ねじ数本から、保証書を付けてくれるところはあまりないと思います。

―― 御社はどのような役割を担っていくのでしょうか。
高須 当社の直接取引のパイプを利用して、品川区、大田区など城南地区の工場に仕事を持って行くようなことができればと思っています。小さな町工場だと、口座を開設させてもらえず直接取引が難しいケースもあるので、現在われわれが間にはいるようなこともしています。
 また先に紹介したWebサイトでは、ねじ以外の製品の販売を一部始めています。今後は、当社のお客さまの製品を当社のWebサイトで販売することも可能だと考えています。
 そうして、産業の中のリーダー、地域の中のリーダーとして、社会で必要とされる会社にしていくことが目標です。

IMG_5786.jpgウェブサイト販売の構想を語る高須社長        


 つい先日、当社のキャラクターもできました。社内公募で決定した若手女子社員の作品で、名前は「ねじ まきちゃん」といいます(笑)。今後は、彼女にもどんどん活躍してもらおうと思っています。

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「ねじ・まきちゃん」

 

 

  

 

 

 

富士セイラ株式会社 ホームページ: http://www.fujiseira.co.jp/

<参考>

・ 平成24年度補正 「ものづくり中小企業・小規模事業者試作開発等支援補助金」 採択結果
  http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/sapoin/2013/130830MonoKekka.htm
・東京都 平成24年度 「受注型中小企業競争力強化支援事業助成金」採択企業紹介
  http://www.nc-net.or.jp/tokyochuokai/j2012/

 

 

(取材&記事 ワッツコンサルティング㈱ 杉本恭子)