会報ねじ

鉄道車両製造工場を見学

2014年01月17日

関東支部(椿 省一郎副会長・支部長)は、昨年12月13日、年末恒例の工場見学会を実施。今回は、鉄道車両を数多く製造している株式会社総合車両製作所様の訪問となりました。

見学会に参加された協会の未来開発・パブリシティ委員会の西川倫史委員(日本鋲螺株式会社代表取締役社長)に、報告をまとめて頂きましたのでご紹介いたします。

尚、関東支部は、一昨年には日本航空株式会社成田機体整備工場見学会を行っており、その模様も以下から見ることができます。

http://www.fij.or.jp/blog/cat04/post-21.html



<関東支部、鉄道車両製造の株式会社総合車両製作所様を見学> 

 未来開発・パブリシティ委員会委員 西川倫史

 

鉄道マニアの私には「聖地巡礼」ともいうべき見学会

  今回は関東支部工場見学会ということで横浜の㈱総合車両製作所様を見学させていただきました。「総合車両製作所」というとピンとこない方が多いと思いますが、2012年にJR東日本グループ入りをし、「東急車輛製造」から「総合車両製作所」へと社名を変更しました。つまりこの総合車両製作所は、日本でステンレス車両を初めて製造した会社であり、かつ日本にある車両メーカーの中でJRから新幹線製造を許可された5社の中の1社であるということで、鉄道マニアには垂涎の「聖地巡礼」ということになります。
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(↑ ステンレス車両1号車の展示もあります)

 今回おじゃました横浜事業所は京急の金沢八景駅からすぐの場所にあり、まわりには「関東学院」「横浜市立大学」「横浜市立金沢高等学校」といった学校がそばにある文教地区です。その中では異彩を放つ巨大な工場なのですが、古くは日本海軍の航空技術廠がその地にあり、そこを引き継ぎ総合車両製作所の前身である東急車輛製造が設立されたという歴史があります。

さて、正門で手続きを済ますと総合車両製作所の社員の方が2名出迎えていただきました。案内していただいた建物はとても威厳のある建物で、社員の方にお伺いするとその建物は戦争中に海軍が建てたものだそうで70年以上経った今も現役で使用できるのはさすがだと思いました。

 

 車両の「構体」の変遷-設計部西垣部長講演から-

 工場見学に先立ち、設計部の西垣部長様から車両の「構体」(つまり車体)の歴史についての講演がありました。明治時代、西洋から鉄道が導入され、日本国内でも車両を製作するようになります。しかし、当時は車両製造の専門メーカーはなく、主に造船所で製造されていたそうです。それは、まだ鉄道車両が「木」で作られていたためです。

鉄道が普及し、車両も大型化されるにつれ、車両もボギー車(台車がついている)に変わっていったため木造では強度が不足し、構体は鋼鉄製のリベット留へと変化します。構造上どうしても床の強度が必要となり構体は溶接で接合されるようになりますが、床面を強化すればするほど重量は増加し、その影響で妻面、側面に使用する鋼板が薄くなるといった問題が出てきました。

そこで取り入れられたのが飛行機などで取り入れられている「モノコック構造」です。鉄道車両の場合、厳密には「セミ・モノコック構造」ですが、モノコック構造を取り入れたことにより構体を簡素化・軽量化することに成功しました。その代表的な車両が総合車両製作所で製造された「東急5000系」です。

その後も簡素化・軽量化の流れは止まらず、鋼板を使った工法では構体重量の削減が限界になりました。そこで目をつけたのがステンレス鋼とアルミです。

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 ←ご講演いただいた西垣部長(向かって左)

 

 

 



軽量化の進展 -ステンレスとアルミ合金の貢献-

ステンレスは文字通り「錆びない」ため、鋼板を使用した場合に必要な①腐食代を折り込む必要なくなりその分軽量化できることや、腐食しないことによる②メンテナンス簡素化、そのことによる③予備車の台数削減、④塗装の褪色による塗直しや日常洗車の回数削減など製造のみならず保守面においてもメリットがあるといえます。

しかし実用化は大変難しく、ステンレスは溶接すると溶接個所から応力腐食割れが発生することや、加工硬化が大きく塑性加工が難しい、なにより素材が高価であるといった問題があります。そこで総合車両製作所は、アメリカのバッド社から技術供与を受けてオールステンレス車両(東急7000系)を日本で最初に製造することに成功しました。その後、国鉄(現JR)205系に採用される際に、技術情報の公開という条件を総合車両製作所が受け入れたことにより、いっきに私鉄各社にステンレス車両が普及するようになりました。しかしステンレス車両というと総合車両製作所というブランドはしっかり築かれており、現在総合車両製作所で製造された最新型車両には「sustina」というブランドがつけられています。

軽量化ですが20メートル級車両の鋼板製が10tあったものがオールステンレス車両の第1世代で8t、その後、溶接技術の向上によりスポット溶接から現在の最新型(東急5050系)に使用されているレーザー溶接での接合により組上げられる構体の重量は、なんと5.9t台まで低減されています。

 通勤車両はステンレス、高速鉄道車両はアルミ合金の棲み分け

 いいことずくめのステンレス車両ですが、なぜか通勤車両にしか採用されません。その辺りを西垣部長にお聞きしたところ、①特急などの優等列車はデザインが大事なためステンレスの金属地が見えるようなのは好まれず、必ず全面塗装をするためステンレスの良さがいかされないこと。②優等列車の先頭車は流線型になっていることが多くステンレスでは加工が難しいこと。だそうです。そのためステンレス車両の先頭車にはデザインを反映しやすいようFRPを使用するものもあります。さらに南海電鉄の関空特急ラピートのような独特な先頭車両の形状の場合、ステンレス車両やアルミ車両全盛期に製造されながら鋼板製で製造したとのことでした。

一方、アルミ合金車両の歴史は、ステンレス車両の登場と同時期にはじまります。ステンレスとは違い、素材自体がもともと鋼板より軽いこともあり、軽量化に苦心する必要はないのですが、反対に柔らかすぎるため構体の強度を確保するとめ試行錯誤が続きます。アルミの板のみでは強度がないため、その板に骨になる部材を接合するのですが、当時はアルミの溶接技術がまだ確立されておらず、構体の接合は部分的にリベット留が採用されています。日本で最初のアルミ車両は、昭和37年に川崎車輛(現:川崎重工)が製作した山陽電鉄の2000系(第1世代)でした。その後MIG溶接、スポット溶接と接合方法が変化し、アルミ車両の製造方法が大きく変わるのは第2.5世代に採用されたアルミの押出形材です。従来は板と骨を接合していたものを押出金型を用い、一体成型することにより大きく工程を省略することができました。現在ではさらに強度を確保するため大型中空押出型材を用いて、外板と骨格の一部、外板補強を一体化(ダブルスキン構造)し、スポット溶接適用部位が大幅に削減されています。ところで肝心の車両の重量はというと、素材がやわらかい分補強が必要なため使用されるアルミ合金の量が多く、ステンレス鋼製車両とほぼ同じ重量だそうです。

このようなアルミ合金車両なのですが、①素材の価格がステンレス鋼より高い(必然的に車両価格が高い)②押出金型をつくるため量産しないと採算がとれない③事故等で構体が変形した場合、修復に熟練を要する等の問題があります。しかし、現在、新幹線はすべてアルミ合金車両となっており、デザイン的にも性能的にも高速鉄道車両はアルミ合金製というのが主流となっています。

 いよいよ、工場見学! わくわくです。

 さて、ここから工場見学です。最初に目に入ったのがJR東日本、秋田新幹線E3系です。スーパーこまちE6系が順次増車されるのに伴い、E3系の古い編成を廃車し、または比較的年次の新しい編成を改造するための入庫だそうです。

E3系を横目に進むとトラバーサーが目に飛び込んできました。トラバーサーとは鉄道車両工場では必須の設備です。自動車の組立工場のように車をコンベアに乗せて各工程を移動させるには鉄道車両は大きすぎるため、「構体組立」「塗装」「取付」「艤装」「内装」「台車」と建屋がわかれています。その工程の建屋に車両を移動させるための水平移動するエレベーターのようなものなのです。

 【構体工場】

はじめに構体工場を見学しました。当日は風が大変強く、引率していただいている西垣部長は、我々見学者が建屋に出入りする際に建屋内に風が入り込むことに非常に注意を払っておられました。それはアルミ合金の溶接をするのにアルゴンガスで周囲を囲んで酸化を防ぐようにしているため、風で雰囲気が飛んでしまわないようにするためでした。

建屋に入るとちょうど左手に北陸新幹線E7系を組み立ているところでした。車両は大きいので後で方向転換することが難しいため、構体を組み立てる時から方向(東京方面、金沢方面等)を決めて組み立てるそうです。随所に車両の端についている指示書にはどちら側かが書かれていました。

E7系の妻面をみると、先ほど西垣部長から説明にあったとおり、アルミ合金の板の間にアルミ合金のジグザグした板が挟まれている(ダブルスキン)構造がよく確認できました。驚いたことは妻面が六角ボルトで締結されていることでした。それはたまたま化粧室ユニット入れる必要がある車両の妻面だからなのかは確認できませんでしたが、アルミとアルミの接合に鉄の六角ボルトという選択が驚きでした。なおこの六角ボルトはパテで埋められて完成車両では見ることができません。

これほど細心の注意を払い組み立てられる構体ですが、通勤車両で20m、新幹線では25mの長さがあるため、やはり歪は発生するようです。実はこの歪を取る方法がまたびっくりです。構体断面のゲージを持った作業者が順番にゲージを構体に当てて行き、隙間を発見すると巨大なハンマーで力一杯ぶん殴るというものです。まさかの最新の新幹線がハンマーで叩かれているとは!びっくりしていると西垣部長が「わたしがハンマーで叩くと大変なことになります」とのことそれを聞きなぜかホッとしました。

 【艤装工場・内装取付工場】

次に艤装工場を見学しました。工場の半分は艤装するためのスペース、もう半分は艤装するパーツを所定の長さや大きさに加工して、車両ごとに集約するスペースとなっていました。そのあとの内装取付工場も同様ですが、購入品や支給品の多さにびっくりです。普段は近くで見ることのないパンタグラフや密着連結器、車両の椅子、つり革などは家に持って帰りたい衝動にかられました。

 【試験そして出荷】

こうして最後に台車を取付けてできあがった車両は、京急線と平行に走る試験線で走行試験、発注者の立会い試験を経て出荷されます。一部の私鉄、新幹線車両はトレーラーに載せて搬出されますが、JR・京急・その他私鉄のほとんどの車両を搬出するのは京急本線から工場内に伸びる支線を利用します。ここで「?」と思った方はかなりの鉄道マニアです。そうですJRと京急は線路の幅(ゲージ)が違う(JR:1067mm 京急:1435mm)のです。実はこの総合車両製作所-金沢八景-神武寺(逗子線)は日本で唯一の3線軌道(レールが3本)なのです。つまりJR向け車両は台車を交換することなくこの総合車両製作所から牽引気動車に引っ張られて京急の線路を神武寺まで走行、その後連絡線を通りJR逗子にある車両基地に搬入されます。

しかしどうして一民間企業である車両製造会社がこのような搬出路の優遇?があるのか尋ねたところ、このJRまでの連絡線路は日本海軍が敷いたものだそうです。

 

お蔭さまで大満足の見学会でした。総合車両の皆様に感謝します。

 最後に工場敷地の一角に保存されている0系新幹線の先頭車両の前で記念撮影をして見学会を終了しました。

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本当に今回の見学会は営業運転前の北陸新幹線E7を見ることもでき、また見学中にもこちらからの質問攻撃にも丁寧に答えていただき、一鉄道好きな筆者としてはお腹いっぱいで大満足でした。また工場のいたるとこに垣間見られる長い歴史をも感じることができる有意義な見学会でした。

日本鋲螺㈱西川倫史


【見学先会社の概要】

商  号:株式会社総合車両製作所(Japan Transport Engineering Company)
所在地:神奈川県横浜市金沢区大川3番1号
設  立:2011年(平成23年)11月9日
資本金:31億円
従業員:932名(2013年4月1日現在)